日本企業とフランス企業の研究開発マネジメントに関する比較調査研究 (調査資料・デ?タ No.49 NISTEP-BETA共同研究) 第2調査研究グループ 瀬谷 道夫 1. 調査研究の概要・目的 産業のグロ?バリゼ?ションや大競争(メガコンペティション)の進展にともない、技術開 発競争の激化による企業の経営環境の不安定性が増大してきており、各企業は自身 の将来を託す研究開発( R&D )戦略を見いださなければならない状況を迎えている。 企業の R&D 戦略を決める際に考慮されなければならない重要な点の一つは、 R&D をどのようにマネジメントしていくのかということである。当研究所(NISTEP)では、1991 年12月?1992年1月に年間(1990年度)の研究開発費が100 億円以上の企業を中心と する149社の日本企業を対象に、 R&D マネジメント全般にわたる質問票調査を実施し た(回答率84.6%)が、この際の基本的前提として、「企業が厳しい技術開発競争を行っ てゆくためには、企業の R&D 戦略立案の支援や、その R&D 戦略に基づき組織横断 的に種々の調整・支援機能を有する部門( R&D 戦略部門)が必要である」ということ を揚げ、その実証を試みるとともに、この部門の存在を指標としてデータの整理を行っ た。その結果、日本企業においては、約 65%の企業が R&D 戦略部門を有していると 答えており、かなり一般的な部門となっていることが明らかになった。また、当該部門を 有する企業では、 ・コンソ?シアを通じてより積極的にグロ?バルネットワ?クの構築に取り組んでいる 革新的研究を促すため、研究者の待遇の改善をより進めたり、研究者により自由度をも たせている 等、この 2 つのグル?プ間の R&D 戦略の傾向の違いや、その R&D マネジメントの違 いがクロ?ズアップされた。(この研究は、「日本企業にみる戦略的研究開発マネジメン ト1993年7月(NISTEP Report No. 29)」としてまとめられている。) 企業のマネジメント( R&D マネジメントを含む)については、異なる社会的、経済的、文 化的背景をもつ国の間では一般的に異なったものとなっている。日本とフランスは、こ れらの背景が大きく異なっており、また、国全体としての研究開発への取り組みについ ては、日本が民間主導/応用・開発研究の割合が高いのに対して、フランスは、国の 研究開発出資が大きく/基礎研究の割合が(日本に比べて)かなり高いという対照的 な姿勢を有している。各々の国の企業は、メガコンペティションの時代を迎えて、社会 的・文化的な背景から来る制約の中で、いかにそれに対応していくかという課題に直 面している。 本調査研究は、当研究所の行った上記の研究をベースに、当研究所とフランスのル イ・パスツ?ル大学(経済理論応用研究所:BETA)の共同研究として進めてきたもので あり、日本で用いた調査票に修正を加えたものでフランスの民間企業の R&D マネジメ ント等を調べ、上記の日本の結果との差異を抽出し、それをもたらす日本とフランスの 社会的・文化的な要因等についての考察を行いつつ比較分析を行ったものである。 本比較調査研究では、事前のNISTEPの研究結果を踏まえ、 “フランス企業においても「 R&D 戦略部門」を採用しているか”また“そ のような自律的な部門の R&D マネジメントに及ぼす影響は日本企業の場合 と同程度か”を調べること 及びこのことを調べる過程において、 日本企業及びフランス企業における R&D 戦略の傾向の違い及び R&D マ ネジメントの相違を明らかにすること 1 とした。 BETAにおいては、NISTEPの用いた質問調査票をベ?スにフランスの社会的背景等を 考慮した修正を行い、フランスに本社をもつ規模の大きな企業 106社を対象に、1994 年6月?8月に質問票調査を行った(回答率 29.1%)。 なお、この調査研究は、日本とフランスの大企業の大まかな比較を行うものであり、特 定な項目に焦点を当てたものではない。 2. 比較調査のまとめ 2-1. フランス企業における「 R&D 戦略部門」の採用 フランス企業においても回答企業の約 58%が有していると答えており、 研究開発戦略を専門に担当する部門( R&D 戦略部門)は、フランス企業に おいても、かなり一般的な企業内の一部門となっている。{図J-1 ? 図F-1参 照} ことが明らかとなった。 2-2. フランス企業における「 R&D 戦略部門」の R&D マネジメントに及ぼす影響 R&D 戦略部門の R&D マネジメントに及ぼす影響については、当該部門を有する企業 群とそうでない企業群の比較により、 日本企業においては、 J? 研究開発の(国際展開を含む)多方面(多分野)への積極的展 開を促す J? 各部門の意見を調整しつつ、より組織的に研究開発活動を支援 する J? 研究開発投資の効率の改善あるいは研究開発コスト削減を支援 する J? 研究者の待遇改善や研究者の自主性の引き出しを支援する J? 社内外の研究開発環境因子をより幅広く吟味する フランス企業においては、 F? 研究開発の(国際展開を含む)多方面(多分野)への積極的展 開を促す F? 各部門の意見を調整しつつ、より組織的に研究開発活動を支援 する (F? ' 販売・マ?ケティング部門の影響力が弱まり、その他部門の 影響力が強まる) F? 研究者の自主性の引き出しを支援する 2 F? 社内外の研究開発環境因子をより幅広く吟味する のようなものが見出され、 R&D 戦略部門が R&D マネジメントに及ぼす影響は、研究開発の積極的展 開、各部門の意見調整、環境因子の幅広い吟味・分析、研究者の自主性確保 の支援等、日本企業の場合とほぼ同様なものとなっている。また、研究開発 活動への販売・マ?ケティング部門の影響力が弱くなる傾向が見える。 ということが明らかとなった。 以上、2-1. 及び2-2. の結果より、日本企業及びフランス企業とも、厳しい企業経営環 境に対処するため、社内横断的な組織部門( R&D 戦略部門)の活用により、研究開発 資源の効率的・効果的運営に努力していることが窺える。 2-3. 日本企業とフランス企業の R&D マネジメント等の違いとその背景 本比較検討により、日本企業とフランス企業の R&D マネジメント等の違いに関して、他 の研究を追認するものも含めていくつかのことが明らかになった。それらの相違点を引 き出すと考えられる大きな要因及び背景として、国全体の研究開発体制、企業の競争 環境、企業の資金調達方法及び人材の流動性(あるいは社会における人材育成制度) に関する相違があげられる。 (1) 国全体の研究開発体制の相違に起因する違い 国全体の研究開発体制の相違が主に影響していると考えられるものでは、企業の基礎 研究への取組みの積極性の違いがあげられる。 企業の基礎研究については、フランス企業に比べて、日本企業の方がより積 極的に取組んでいる。 {図J-2 ? 図F-2参照} 概していうと、フランスでは、“国は基礎研究、企業は応用・開発研究”という役割分担 が明確であり、企業が基礎研究を行わなければならないという意識はあまりないようで あるのに対して、日本においては、国の基礎研究への寄与が小さく、かつ、国全体の 研究 開発が民間主導であったことから、企業が自ら基礎研究を行わなければならない という意 識がやや強く、上の違いが出ているものと考えられる。 フランス政府は基礎研究に力を入れてきており、また、大型国家プロジェクトを推進して きているが、一方で、基礎研究の政府系機関への集中が生じ、これが民間産業分野へ の技術(ノウハウ)の普及を阻害していると認識されてきている。これまでのフランスに おける他の研究でも、フランス企業の基礎研究への取組みは、日本企業に比べて見劣 りするものとなっていることが示されている。このような中で欧州連合がこれまで推進し てきている先端技術開発のための R&D プログラムは、コンソ?シアという形をとりつ つ、フランス企業も含めた欧州企業の研究開発活動を支援するものとなっており、 フランス企業は、日本企業に比べて、国際的なコンソ?シアの参加に必要性 を感じており、かつ、より積極的に参加している。 {図J-3(a),(b) ? 図F- 3(a),(b)参照} という結果を出す基本的な背景となっている。 (2) 企業の競争環境の相違に起因する違い 日本企業は、国際的な競争に加えて、国内同業種の多数の企業とも競争する必要があり、欧 米各国に比べて厳しい製品開発競争を行っている。激しい競争下においては、新しい技術 の出現により企業の製品シェアが短期間で激変することが多くあり、日本企業は一般的に、 技術動向について極めて敏感になっている。日本企業の戦略としては、当面数年間の消費 3 者ニ?ズの変化を予測し、研究開発資源の重点的投入を行っていくこととなる。このようなこと を背景として、以下のように、研究開発投資の効率化を考えた場合には、”投資すべき研究開 発分野の絞り込み”に特に強い関心が示されることとなり、また、日本企業の研究開発戦略立 案過程においては、”技術の将来性”や”マ?ケットニ?ズ”が最も関心の持たれる事項となる。 日本企業においては、 a. R&D の効率化を図る課題として、”投資すべき分野の絞り込 み”が特に重要視されている {図J-4 ? 図F-4参照} b.”企業の将来の発展を担う技術”や”マ?ケットニ?ズ”を軸に研究 開発戦略を立案する {図J-5 ? 図F-5参照} (3) 企業の資金調達方法の相違に起因する違い フランス企業の資金調達方法は、金融市場において株式や社債等を発行して調達す る”直接金融”が主となっている。このため、企業運営への株主の影響力は大きなもの となり、“企業は株主のものであり、企業運営の方向付けは株主が行う”という認識が基 本となっており(このことは他のヨ?ロッパ諸国やアメリカにおいても同程度かより強いも のと考えられる)、企業の経営層においては、株主の利益(短期的な企業収益の向上) を第一優先に考える必要がある。経営層は、株主より常に最も効率的な資金運用を求 められることとなり、投資計画の妥当性を客観的なデ?タにより示すことを迫られる。一 方、日本企業の資金調達は、一般的に見ると、銀行等の融資による”間接金融”型を 取っている。また、株式については、大株主のほとんどは関連銀行や関連する企業で あり、一般の株主の経営に対する影響力は大きいものではない。 本比較検討の結果として出てきている、以下のようなフランス企業の投資効率を求める 強い意識については、フランス企業の直接金融型の資金調達方法を背景にしているも のと理解される。 フランス企業は、日本企業に比べて a. R&D の成果を生産につなげる努力(市場ニーズへの適用強化) {図J-4 ? 図F-4参照} b. R&D 活動の投資効率の(定量的)評価 {図J-6 ? 図F-6参照} により重点をおいている。 また、株主の強い影響力から、フランス企業のマネジメントは、日本企業に比べて経営 層に集権されたものとなり、短期間に企業業績を向上させることに最も留意する傾向を もつものとなり、研究開発戦略の立案においても、製品のコスト競争力が第2位の順位 で重要視されている(図J-5 ? 図F-5参照)。そのような背景から、フランス企業におい ては、売上げや製品の競争力に関する情報を握る販売・マ?ケティング部門の社内で の影響力が 強くなっており、以下の点が出てくることになる。 フランス企業では、研究開発部門が最も密に連携をとるのは、販売・マ?ケ ティング部門である。 {図J-7 ? 図F-7参照} 日本企業の場合、株主の影響力が大きいものではなく、欧米企業に比べて経営層に 自由度があり、“企業は企業のためのものである”という意識が強い。経営層は短期間 の業績向上に留意するのと同様に、企業の将来の発展についても関心を示すことにな る。欧米へのキャッチアップの完了に伴う技術開発競争の不透明化、及び近年の製品 4 サイクルタイムの短縮化に伴うシェアの大きな変動の可能性等の状況を踏まえると、日 本企業の経営層の関心は、必然的に新しい技術を生み出す R&D 活動への関心が高 くなり、先に示したような、企業の基礎研究への取組みを積極的にさせると同時に、以 下のような特徴を出すこととなる。 日本企業においては、 a.企業の将来の発展を担う技術を軸に研究開発戦略を立案する(フ ランス企業では、研究開発部門の能力(人材)を軸にする) {図J-5 ?図F-5参照} b.研究開発部門長の地位が向上してきており、経営層自らが研究 開発部門をリ?ドしている場合が多く見られる {図J-8 ? 図F-8参 照} なお、日本企業の新しい技術に対する積極的な姿勢は、欧米からの技術獲得後に、自 身 で新しい技術分野を大量に作り市場をリ?ドすることができた経験、すなわち、新し い技術を獲得すると、それを応用する新技術分野をリ?ドすることができるという認識、 からも来ているものと考えられる。 (4) 人材の流動性(人材育成の制度)の相違に起因する違い 企業内の様々なマネジメントにおいて、人材の流動性に留意しなければならない面が 多々あるが、人材の流動性については、社会における個人の能力獲得あるいは企業 における人材の育成に関する制度・意識等と密接に関連している。 日本社会においては、これまで企業間の人材の流動性が極めて低い制度である終身 雇用制をとってきているが(現在はそれが崩れつつあると言われている)、その反面、 企業内では人事異動(人事ロ?テ?ション)により職が変わる(企業内での流動性が高 い)ことが一般的であると認識されており、以下のように、日本企業において生産現場 (製造部門)と研究開発部門の連携が密になっているのはごく当然な結果と言える。 日本企業では、研究開発部門が最も密に連携をとるのは製造部門である。 {図J-7 ?図F-7参照} これはまた、日本企業の発展の基礎であった同時的エンジニアリングの基本要因とも なっている。 企業での人材の育成あるいは個人の能力獲得に関しては、日本とフランスでは大きな 相違がある。日本企業の場合は、終身雇用制を前提に人材(研究開発に携わる人材も 含めて)を長い期間をかけて企業内で育成していくのが一般的である。一方、フランス 企業においては、研究者・技術者は企業上層部に属する高学歴技術者(いわゆるエ リート)が主体であり、自らの能力に見合った待遇を求めて他の企業に移っていく(この 過程において自身の能力を高めていく)ことが多く、企業間の研究者・技術者の流動 性は日本に比べて高い。反面、同一企業内で他の部門に移ることはあまりない(企業 内での流動性は低い)。このようなことを背景として、 フランス企業においては、研究者・技術者を事務系従業員と同一の人事体系 で処遇する傾向があるのに対して、日本企業では、研究者・技術者を専門職 を設けて処遇する割合が高い。 {図J-9 ? 図F-9参照} というような結果がでているものと考えられ、フランス企業では、研究者や技術者を特 別 扱いをしないのに対して、日本企業では研究者や技術者の能力を引き出し、同時 に、会社への忠誠心を保持するような配慮をしており、やや対蹠的な人事待遇を行って いる。 5 日本では、企業間の人材の流動性が低いため、新しい研究開発に携わる人材を外部 に求めることは困難であり、どのような技術を選択しようが研究開発人材は基本的に自 社企業で育成せざるを得ない。そのため、日本企業としては、研究開発投資に関連す る多大な人材育成への投資を無駄にしないためにも、企業の将来にとっての技術の重 要性(企業がどのような技術に絞り込むか)に焦点をあてることとなる。また、企業経営 層においては、企業間の人材の流動性が低い状況下で厳しい技術開発競争を行う必 要性から、研究者に革新的な研究を促すこととなり、研究活動に関する自由度を高める 配慮をしている。このようなことから 企業経営者の研究者の自主性の尊重や研究者への信頼(アングラ(個人)研 究の容認)については、日本企業の方が高い傾向にある。フランス企業にお いては、研究者はまず第一に年間研究計画の遵守が求められている。 {図J- 10 ? 図F-10参照} という結果が出ているものと考えられる。 一方、フランス企業では、流動性の高い(すなわち、他企業に流れやすい)研究者・技 術者層を対象として、人材を外部にも求めつつ自社の研究開発戦略を策定することか ら、 フランス企業では、研究開発戦略の立案に際して最も留意される事項は、自 社の研究開発部門の能力(人材)である。 {図J-5 ?図F-5参照} という結果が出てきている。なお、フランス企業においても、技術の重要性を強く認識し ていることは、図F-5 の結果において、研究開発戦略立案に際して留意される事項の 第3番目にそれがあげられていることからもわかる。 また、フランス企業の歴史は一般的に古く、人々の新しいものに対する保守的な姿勢 や製造部門の作業者と研究者・技術者間の階層的なギャップがあり、かつ、各部門の 役割・分担の固定化が進んでいる。企業経営層においては、これらに起因する企業内 での技術移行上の問題について意識を有しており、 フランス企業では、 R&D の効率化を図る課題として”技術移行の円滑化”を最も 重視している。 {図J-4 ? 図F-4参照} という結果が出てきているものと考えられる。 以上のような、フランス企業の制約(人材が他企業に流れやすいこと及び企業内階層 間のギャップ)から、フランス企業の新しい分野への進出については、若干硬直した、 ダイナミズムに欠けるものとなっている面があり、国際競争力の低下の一因ともなって いる。が、一方、このダイナミズムの欠如を補うような形で、コンソ?シアを活用して自社 の技術の補完を行ってゆくことに積極的な姿勢が見られる。この点については、フラン スのみならず西欧諸国においても共有される認識となっており、欧州連合が過去に進 めてきた大きなコンソ?シアによる R&D プログラムがこの受け皿となっている。先に述 べた”必要なノウハウの流動化”の問題に対する回答の一つは、欧州の企業間で、研 究開発資源の共有化や開発技術の複雑化に伴う R&D 支出の不足を補う方法を考案 しつつ、協力(コンソ?シア)を増やしていくことである。 なお、現在フランスでは、このようなコンソ?シアへの積極的参加によるダイナミズムの 確保の他に、大企業においては、マトリックス型組織や技術移行チ?ム等の柔軟な組 織を用いた、従来に比べてより活動的なモデルを使ったマネジメントの動きも始まって いる。 3. 結語 本研究では、これまであまり比較の対象とはならなかった日本とフランスの企業を取り 上げた。日本とフランスは、その社会的発展、文化的背景、経済的成長及び地理的な 6 環境等かなり異なったものとなっており、企業の研究開発マネジメント等は、それらの 違いに影響を受け、各々特徴あるものとなっていると考えられる。 この比較研究において取り上げた組織横断的な R&D 戦略部門の存在やその役割に ついては、国による違いはあまり大きなものではないと考えられ、実際、 R&D 戦略部 門はフランス企業においても日本企業と同様に一般的な存在であり、その機能も研究 開発活動の積極的展開の支援や組織的支援あるいは研究者の自主性の引き出しの 支援等日本企業のものとほぼ同様なものが見いだされた。 R&D マネジメント等の違い に関しては、国全体の研究開発体制、企業の置かれた競争環境、企業の資金調達方 法及び人材の流動性(あるいは企業の人材育成制度)等の相違に起因すると考えられ る特徴的な違いが見出された。 日本の製造業はいくつかの分野で非常に競争力が強いものとなっているが、これは、 先の考察でも触れたように、終身雇用制による身分保障を前提とした、被雇用者の柔 軟な人事ロ?テ?ション等による、技術を主軸とした R&D マネジメント(すなわち、企業 として将来を託す技術に合わせて、企業内での人事異動を行い、 R&D 部門と製造部 門の連携させたマネジメント)によるところが大きい。しかし、終身雇用制が見直されて きている現在の状況や、個人の職業への意識が、企業の仕事に最大の価値観を見出 す企業至上主義から個人の生活を重視するものへ変化しつつあることを考慮すると、 今後の日本企業は、現在欧州諸国の企業が直面している課題に向かわざるを得ない と考えられ、日本企業の技術に指向する程度も将来的には弱くなるものと想定される。 一方、フランス等欧州では、製造業のある分野では競争力が日米に比べて若干弱いと いう認識がある。このような認識下において、フランス等欧州諸国では、企業の競争力 の向上とこれまで人々が享受してきた社会的な伝統との調和を目指す、進展した企業 の課題に直面している。このような中で、今回の比較研究の結果明らかとなった企業 の R&D マネジメント等の違いやその背景・要因は、企業が今後直面するであろう課題 への取組みを行 上での参考になるものと思う。 最後に、この研究に用いたアンケ?ト調査票は、企業の研究開発マネジメントを幅広く 大まかに捉えようとするものであり、個別のテ?マに焦点を当てたものではない。また、 日本とフランスの企業の様々な状況の違いを事前に考慮しつつ作成したものではな く、更に、翻訳上の問題等で質問内容が若干異なったものとなり、システマティックな比 較ができるものとはならなかったことが反省点である。この比較研究が、今後のより充 実した研究の一参考資料になれば幸いに思うものである。 7