産学連携データ・ベースを活用した 国立大学の共同研究・受託研究活動の分析 2010 年3 月 文部科学省 科学技術政策研究所 第2 研究グループ 中山 保夫 細野 光章 長谷川 光一 永田 晃也 Study on university/industry collaboration at Japanese national universities using the database of university/industry collaboration March 2010 Yasuo NAKAYAMA, Mitsuaki HOSONO, Koichi HASEGAWA, and Akiya NAGATA Second Theory-Oriented Research Group, National Institute of Science and Technology Policy (NISTEP) Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT) JAPAN 目 次 サマリー______________________________________________________________________ 1 第1章 調査研究の概要_________________________________________________________ 3 1.1 調査研究の目的....................................................... 3 1.2 実施体制............................................................. 3 1.3 調査研究の方法....................................................... 3 第2章 共同研究に関する基本集計_______________________________________________ 5 2.1 契約件数............................................................. 5 2.2 共同研究を実施する国立大学........................................... 6 2.3 研究分野と連携先..................................................... 8 2.4 共同研究の成長に対する寄与.......................................... 10 2.4.1 実施大学数と平均契約件数の寄与............................... 10 2.4.2 研究分野による寄与........................................... 11 2.4.3 民間等連携先の寄与........................................... 12 2.5 研究経費............................................................ 12 2.6 まとめ.............................................................. 13 第3章 国立大学の法人化前と後の変化__________________________________________ 15 3.1 共同研究契約の成長状況.............................................. 15 3.2 共同研究契約の成長の鈍化............................................ 18 3.3 国立大学法人化の前と後(共同研究実施状況の変化の確認) .............. 19 3.3.1 企業との共同研究............................................. 19 (A) 企業との共同研究................................................ 19 (B) 地域内企業との共同研究.......................................... 20 3.3.2 共同研究の技術分野と相手先企業業種........................... 23 3.3.3 地域の企業業種分布と比した大学の共同研究方向................. 24 3.4 まとめ.............................................................. 25 第4章 地域別に見た研究連携状況______________________________________________ 27 4.1 都道県別に見た企業の共同研究の実施状況.............................. 27 4.1.1 共同研究を実施した実績のある企業............................. 27 4.1.2 企業の共同研究実施状況の評価................................. 28 4.1.3 企業の連携する大学等機関の数................................. 30 4.2 企業の地域内共同研究の実施状況...................................... 31 4.2.1 都道府県ごとの企業の地域内共同研究実施状況................... 31 4.2.2 大学・企業双方の視点で見た国立大学と企業の地域内共 同研究連携の状況................................................... 33 4.2.3 都道府県を越えた共同研究連携................................. 35 4.3 まとめ.............................................................. 36 第5章 企業から見た共同研究創出に影響を与える要素____________________________ 38 5.1 検証仮説と分析方法.................................................. 38 5.1.1 仮説の設定................................................... 38 5.1.2 検証する仮説................................................. 39 5.1.3 分析方法..................................................... 40 5.2 観測変数と潜在変数.................................................. 41 5.2.1 観測変数とデータ取得......................................... 41 5.2.2 潜在変数(共通因子)と観測変数の選択......................... 42 5.2.3 測定方程式モデルの検証....................................... 43 5.3 モデルの適合度評価.................................................. 45 5.3.1 仮説モデルの適合度........................................... 45 5.3.2 モデルの改善................................................. 46 5.3.3 改善モデルの考察............................................. 47 5.4 まとめ.............................................................. 49 Appendix A 新産学連携データ・ベース.......................................... 50 Appendix B 大学類型.......................................................... 51 Appendix C Amos による構造方程式モデリングとモデルの適合度指標............... 52 (A) 分析手順........................................................ 52 (B) 適合度(Fit index) ............................................. 52 (C) パス係数の評価.................................................. 53 【参考文献】.................................................................. 54 - 1 - サマリー 本調査研究では、わが国における産学官連携活動の現状とその変遷の把握に資するため、 科学技術政策研究所が保有する共同研究データ・ベース(1983 年度~2002 年度)及び受託 研究データ・ベース(1995 年度~2002 年度)と文部科学省研究環境・産業連携課技術移転 推進室より貸与された「産学連携等実施状況調査データ(2003 年度~2007 年度)」を結合 し、国立大学(法人)を対象とした新たな産学官連携データ・ベースを構築した。 さらに、当該の産学官連携データ・ベースを活用した調査研究の事例として、(1)共同研 究に関する基本集計、(2)国立大学の法人化前後の変化、(3)地域別に見た研究連携状況、(4) 企業から見た共同研究創出に影響を与える要素を取り上げ、それらの調査研究を実施した。 (1)共同研究に関する基本集計 国立大学の共同研究の契約件数は、制度開始以降、前年度より減少に転じたことはなく、 特に、1990 年代半ばから著しく増加している。しかし、前年度件数との差分で見ると、2002 年度以降、単調増加ではなく増減のある振動傾向が見られるようになってきた。この要因は、 各国立大学、特に地方の中規模大学の成長が陰り始めたことにあり、この状況については 「(2)国立大学の法人化前後の変化」の中で分析、言及した。 共同研究の相手先区分では、国内営利企業(以下、企業と略す)との連携が圧倒的に多く、 1980 年代は契約件数の90%超、以降、1996 年度から2003 年度は80%を若干割り込んだが、 ほぼ80%台の占有率で推移している状況にある。 研究分野で見た共同研究の成長要因では、2001 年度以降の共同研究の成長に対して、重 点8 分野の中でも一貫してライフサイエンス分野の共同研究の寄与が大きい。ナノテクノロ ジー・材料分野は2004 年度にはライフサイエンス分野を抜く寄与を示したが、年度ごとに 波があり、その波も減衰気味の状況を示している。 共同研究経費は、契約件数の増加に比例して推移しており、2007年度には1995年度の11.5 倍(件数は8 倍)となった。1 研究当たりの研究経費も増加傾向にはあるが、2004 年度以降 は250 万円を天井に頭打ちの状況となっている。 (2)国立大学の法人化前後の変化 法人化前2003 年度の共同研究契約件数の成長率(2001 年度比)は、1983 年度からの累積 契約件数上位20 大学で150~200%の大学が大半であったのに対し、法人化後2007 年度の成 長率(2005 年度比)では、150%程度の成長率を保っているのは一部の旧帝大グループ(北 海道大、京都大、九州大)くらいとなり、地方大学にはマイナス成長となった大学もでてき た。 国立大学の合計契約件数に占める当該大学の件数の割合(占有率)の状況をみると、法人 化前の東京大学とその他の大学群の2 群に区分できる構造から、法人化後は一部の旧帝大グ ループ(大阪大学・京都大学・東北大学・九州大学)がその他の大学群から一歩抜け出して 中間グループを構成し、「東京大学/一部の旧帝大グループ/その他の大学群」の3 群構造に 移行している。 共同研究経費(20 大学合計)では、法人化前(2003 年度)に比して法人化後(2007 年度) は2 倍強に増えている。しかし、増減の状況は大学ごとにまだら模様であり、中規模大学や 東京工業大学を除いた理工系中心大学では件数の増加に比例した形にはなっていない。 共同研究累積契約件数上位50 の国立大学における共同研究に関して、法人化前後の変化 を、大学類型別(大規模大学、中規模大学、理工系中心大学)に統計的に検定した。 国立大学の共同研究契約件数に占める企業との契約件数の割合の検定では、大規模大学と 中規模大学で法人化前後に有意差があり、法人化後に企業と契約する割合が増加したことが - 2 - 明らかになった。また、企業との契約件数に占める中小企業の割合の検定では、いずれの大 学類型でも法人化前後で有意差はでていない。(法人化前は2000~2003 年度の4 年分の研 究契約で、法人化後は2004~2007 年度の4 年分の研究契約で評価) さらに、「地域企業」との共同研究の実施状況に関して同様に検定した結果、大学の共同 研究契約件数に占める地域企業との契約件数の割合の検定、および、地域企業との契約件数 に占める地域中小企業の割合の検定、いずれの結果も各大学類型で法人化前後に有意差はで ていない。(2003、2004 年度は地域内連携に関するデータが無きため、法人化前は2000~ 2002 年度の3 年分の研究契約で評価し、法人化後は2005~2007 年度の3 年分の研究契約で 評価) これらの検定結果から、法人化後の国立大学の共同研究の実施方向は、企業との共同研究 を増やしている傾向にあるが、内訳として、中小企業の技術支援に軸足を移す、或いは、地 域内貢献に向けて地域企業を重点に連携するような構造的な変化は起きていないと推測で きる。 (3)地域別に見た研究連携状況 ここでは、企業側から見た地域内の共同研究の実施状況について考察を進めた。 企業が共同研究した実績のある大学等機関の数について、10 機関を越えるような広範な 連携実績を持つ企業は三大都市圏および地方圏の一握りの大企業に過ぎない。それらの企業 は、知名度の高い大企業だけではなく、産学連携を通じた技術基盤の強化と社会貢献を図る 目的で設立されたコンソーシアム企業なども含まれている。他方、中小企業の多くは、研究 開発型の企業でない限り特定の大学等機関と連携を行っている。例外的に、中小企業の中に も広範に大学等機関と連携を行う企業は存在するが、大企業の研究機関(別法人)や複数企 業が出資した研究開発を主目的とする企業などである。 企業が地域内(同一都道府県)の大学等機関と共同研究するパターンは都市型と地方型の 2 つに大別できる。都市型は、共同研究を実施する企業の数が多いことから、地域の大学等 機関だけでは様々なニーズの受け皿となりきれず、地域を越えて近隣の大学等機関に流れる 傾向があり、取り分け関西圏の企業にその傾向が強く表れている。一方、地方型では、企業 は地域内の大学等機関と連携して共同研究を行い、地域を越えて積極的に大学等機関と連携 しようとする傾向は低く、北海道、宮城・福島を除く東北、山陰、福岡を除く九州・沖縄な どの各県の企業がその代表例となる。 また、地方型とした各県に所在する大学は、大学自身の地域内研究連携の指向度(大学が 共同研究する企業のうち地域企業の占める割合)も高くなる傾向があり、それも一つの地域 企業と多くの研究を行うのでなく、一企業当たりの件数は少なくても広範に地域企業と研究 連携する特性が見られる。 (4)企業から見た共同研究創出に影響を与える要素 本調査研究で構築した産学連携データ・ベース及びその他のデータを活用し、企業が研究 連携する大学の決定要素に関して、構造方程式モデリング(共分散構造分析)により分析を 行った。 分析により得たモデルから、企業と国立大学の研究連携の実現において、企業による大学 の「成果創出能力(大学が優れた研究能力を有し、また、企業の求める成果を創出し得るか を測る指標)」の評価が鍵を握り、続いて、企業の事業に貢献可能な「有望知財の保有(企 業が事業化に活用できる有望な知財やKnow How 等を保有していることを測る指標)」が評 価要素として重要であることが示唆された。大学の「技術移転体制(産業界に技術移転する ための組織・ルール等の整備状況を評価する指標)」は、企業による連携大学の選択に直接 的に影響を及ぼす要素とはなっていないが、当該大学の研究成果創出能力を高める要因の一 つとなり、間接的に影響する評価要素であることが分かった。 第1章 調査研究の概要 - 3 - 第1章 調査研究の概要 1.1 調査研究の目的 1990 年代半ば以降、イノベーション創出のために産学連携活動が活発化した。特に国立 大学は2004 年の法人化以降、産学連携活動を大学の第三のミッションである社会貢献活動 として捉え、自主的な取り組みが行われてきている。政府の関連施策もあり、多くの大学 で知財本部が設置され、そこでは各大学知的財産管理・活用や産学連携活動が実施されて いる。 国立大学の法人化は、各国立大学の運営に自主性を与え、各々の特色に基づいた教育・ 研究・社会貢献を実施させること可能にしており、産学連携も各国立大学の特色を反映し たものに変化・変質していることが推測される。 また、地域イノベーションシステム/地域クラスターの産学官連携活動の中核として期待 されることの多い地域の国立大学にとって、当該地域の企業等との連携はまさに地域貢献 であり、加えて外部資金獲得の手段となりうることから、その進展が期待されている。 しかしながら、このような国立大学法人化が産学連携活動に与えた影響に関して、実際 の産学連携に関するデータにより実証的に分析し示した例はほとんどない。 本研究では、産学連携活動のうち、共同研究に関するデータを用いて、国立大学の法人 化に伴う産学連携運営方針の変化や各大学の特性(規模・組織整備・地域性・連携指向等) など産学連携研究の創出に影響を与える要素を加味し、活動状況の分析を行った結果を報 告する。 1.2 実施体制 本調査研究は、文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課技術移転室の協力を得て、 科学技術政策研究所第2 研究グループ永田晃也総括上席研究官及び長谷川光一研究員の指 導のもとに、以下のメンバーで調査研究を実施した。 科学技術政策研究所 第2 研究グループ 客員研究官 中山 保夫(1~5 章) 客員研究官 細野 光章(1~3 章) 1.3 調査研究の方法 本調査研究では、わが国における産学(官)連携状況を把握するために、まず、NISTEP 調査資料136「地域における産学官連携-地域イノベーションシステムと国立大学-」にお いて構築した共同研究データ・ベース(1983 年度~2002 年度)及び受託研究データベース (1995 年度~2002 年度)に、文部科学省研究環境・産業連携課技術移転室より貸与された - 4 - 「産学連携等実施状況調査データ(2003 年度~2007 年度)を結合し、新たなデータ・ベー ス(以下、「新産学連携データ・ベース」という。Appendix A 参照。)を構築した。 その後、構築された新産学連携データ・ベースの活用した調査分析の事例として、わが 国における産学(官)連携の状況を把握するという観点から、①共同研究に関する基本集 計、②国立大学の法人化前後の変化、③地域別に見た研究連携状況、④企業から見た共同 研究創出に影響を与える要素について分析を試みた。 本報告書の第2 章では、①共同研究に関する基本集計、第3 章では②国立大学の法人化 前後の変化、第4 章では③地域別に見た研究連携状況、第5 章では④企業から見た共同研 究創出に影響を与える要素にかかる分析結果をそれぞれ報告する。 第2章 共同研究に関する基本集計 - 5 - 第2章 共同研究に関する基本集計 本章では、「民間等との共同研究(以下、共同研究と略す)」の契約状況に関して、基本 的な変遷を見る。なお、本章では、Appendix A で説明する「新産学連携データ・ベース」 のうち共同研究データ・ベースを用いて集計を行っている。 2.1 契約件数 共同研究制度が開始された1983 年度から2007 年度までの契約件数の推移を図2.1.1 に 示す。ここで示す契約件数は、国立学校のうち、大学院大学、大学共同利用機関、および、 高等専門学校を除いた国立大学法人(以下、国立大学と略す)について示している。 国立大学の共同研究の契約件数は、制度開始から2007 年度までの25 年間、前年度より 減少したことは一度もなく、特に、1990 年代半ばから著しく増加している。 前年度件数との差分である増加件数を見ると、1999 年度から2002 年度まで大きく増加し た後、国立大学の法人化準備の影響と考えられる2003 年度の過渡的落ち込みを経て再び増 加し、2006 年度から再度減少するといった動きを見せている。 これらの動きに経済環境、産学連携を支援する関連法等の施行時期を重ね合わせて見る と、そうした要素が大学と民間等(特に国内営利企業)双方の産学連携に対する意識に影 響を及ぼしていることが推測できる。 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0 500 1,000 1,500 2,000 共同研究契約件数 対前年度増加件数 件数 対前年度増加件数 ・科学技術基本計画 ・大学の教員等の任期に 関する法律等 ・大学等技術移転促進法 ・産業技術力強化法 ・産業活力再生特別措置法 ・第二期科学技術基本計画 ・知的財産基本法 ・知的財産推進計画 ・産学官連携促進税制 ・知的財産推進計画2004 国立大学法人化の影響 ・第三期科学技術基本計画 円高不況バブル景気ITバブルいざなみ景気 バブル崩壊アジア通貨危機サブプライム問題 産学連携関連法律等 図2.1.1 国立大学の共同研究契約件数の推移 - 6 - 2.2 共同研究を実施する国立大学 共同研究を実施した国立大学(除大学院大学)の数の推移を図2.2.1 に示す。 制度開始時点の国立大学の共同研究実施率(16.7%)が60%(1988 年度)に上昇するま で5 年間であったのに対して、60%から80%(1998 年度)に上昇するのに倍の10 年を要 している。 大学類型別(Appendix B 参照)に見ると、1988 年度までに理工系学部を保有する大学(大 規模大学、中規模大学、理工系中心大学が該当)は僅かな大学を残して共同研究を開始し ており、未実施の大学は教育大学、文科系中心大学、医科大学がその殆どを占める状況と なった。 以降、それらの未実施大学が五月雨的に、また非連続的に共同研究に参加してきたのが 図2.2.1 の大凡の推移である。 図において、2002 年度の筑波大学と図書館情報大学、山梨大学と山梨医科大学の合併を 始めとする国立大学の減少による落ち込みがあるが、2004 年度の法人化以降、教育大学、 文科系中心大学などで件数は僅かであるが共同研究が実施され始めたことにより再び大学 数、実施率は上昇している。 2007 年度は、82 の国立大学のうち76 大学で共同研究を実施しており、実施していない6 大学のうち、5 校は教育大学が占めている。 0 20 40 60 80 100 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0 20 40 60 80 100 共同研究実施大学の数 共同研究実施率 共同研究を実施した国立大学の数 年度 国立大学の共同研究実施率 % 図2.2.1 研究を実施する国立大学数の推移 図2.2.2 は研究を実施した1 国立大学当たりの契約件数の推移を示している。 1 国立大学当たりの契約件数は、制度開始後一貫して増加基調にあるが、飛躍的に増加し たのは2000 年度前後からである。 - 7 - 法人化後も増加基調は変わらず、法人化前の2003 年度と後の2007 年度の比では、約1.7 倍に増加している。しかしながら、近年(2006 年度から)伸び悩みの傾向が見え始めてい る。 その傾向を分析すると、例えば2000 年度から2001 年度の全国立大学の件数で1100 件強 増加したが、研究を実施した大学の数は同じであり、その間の1 国立大学当たりの件数の 増加は純粋に全国立大学の増加件数が効いている。一方、2002 年度と2003 年度では、同様 に全国立大学の件数で1100 件強増加しているが、実施大学は合併等の影響で10 大学減少 しており、分母・分子両者の影響で大きく1 国立大学法人当たりの件数を増やしている。 以降、2007 年度まで分母となる実施大学数は若干の減少(1~2 大学)はあるが、分子と なる全国立大学の件数は2000 年度以降で、前年度比+20~30%程度あったものが、2006、2007 年度では+10%程度に低下しており、このことが図の伸び悩みの直接の背景となる。 0 50 100 150 200 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 1国立大学当たりの共同研究契約件数 年度 図2.2.2 1 国立大学当たりの共同研究契約件数の推移 - 8 - 2.3 研究分野と連携先 ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の重点4分野に、エネル ギー、製造技術、社会基盤、フロンティアを加えた8 つの研究分野別に共同研究契約件数 の推移を示したのが図2.3.1 である。 図2.3.1 において、推移の記述を2001 年度からとしているのは、重点分野が2001 年3 月に閣議決定された第2 期科学技術基本計画において定められ、これに沿った共同研究状 況の調査も2001 年度から行われたためである。 なお、2004 年度の「その他」の契約件数が特異値となっているのは、当該年度のみ重点 4 分野以外を「その他」と一括りにして調査が行われたためである。 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 ライフサイエンス 情報通信 環境 ナノテクノロジー・材料 エネルギー 製造技術 社会基盤フロンティア社会基盤 その他 契約件数 年度 図2.3.1 研究分野別共同研究契約件数の推移 2001 年度に比した2007 年度の件数は、それぞれの分野で表2.3.1 に記載の伸びとなって おり、特にライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、製造技術の3 分野で件数が増加 していることがわかる。 表2.3.1 研究分野ごとの共同研究の増加 分 野 2007 年度の件数の伸び(2001 年度比) ライフサイエンス 347% 情報通信 176% 環境 159% ナノテクノロジー・材料 312% エネルギー 194% 製造技術 330% - 9 - 社会基盤 150% フロンティア 127% 次に、国立大学の共同研究の連携先となる民間等区分別の契約件数の推移を図2.3.2 に 示す。図における民間等の区分は次の通りである。 会:国内営利企業 独:独立行政法人、特殊法人、公団 団:財団法人、社団法人、医療法人、社会福祉法人、農事組合法人、商工会議所、 各種組合(事務組合を除く)。 地:地方自治体、公立病院、公立学校、地方自治体所掌の協議会、事務組合。 国:省庁等国の機関 他:上記以外 この図より、共同研究における大学の連携先となる民間等は、国内営利企業(区分「会」) が圧倒的に多く、1980 年代は契約件数の90%超、以降、1996 年度から2003 年度は80%を若 干割り込んだが、ほぼ80%台の占有率で推移している状況にあることがわかる。 他の民間等の区分では「団」や「独」が比較的多い状況にある。なお、2004 年度の「団」 と「独」の特異値は、当該年度に限り「独」を「団」に含めた括りで調査が行われたため である。 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0 20 40 60 80 100 会 「会」の割合 共同研究件数 年度 「会」の割合 (%) 会 団 独 地 国 他 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 団 独 地 国 他 共同研究件数 年度 拡大 図2.3.2 民間等区分別研究契約件数の推移 - 10 - 2.4 共同研究の成長に対する寄与 2.4.1 実施大学数と平均契約件数の寄与 ある年度における共同研究の契約件数P は、共同研究を実施した国立大学の数N と1 大 学あたりの平均契約件数αの積として、(1)式のように表すことができる。 P =αN ・・・・・・・(1) P を全微分すれば、(2)式が得られ、成長要因を分解することができる。 N N P ΔP = Δ + Δ α α ・・・(2) (2)式の各項の経年変化は、共同研究データ・ベースより図2.4.1 に示したようになる。 但し、⊿は前年度との差分として表していることから、制度開始年度である1983 年度の値 は示していない。 図2.4.1 より、⊿N/N の値は1990 年代以降に小さくなり、⊿α/αの値の方が1994 年 度、1998 年度を除いて⊿N/N の値を上回っていることが読み取れる。 このことから、1990 年代以前は共同研究を実施する大学の増加が、以降は大学当たりの 平均契約件数の増加が共同研究の成長に寄与したと結論することができる。 -0.15 -0.05 0.05 0.15 0.25 0.35 0.45 0.55 0.65 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 ⊿P/P ⊿N/N ⊿α/α 変化率 年度 図2.4.1 ⊿α/αと⊿N/N の経年変化 - 11 - 2.4.2 研究分野による寄与 続いて、研究分野による共同研究の成長に対する寄与を見てみる。 共同研究の契約件数P をライフサイエンス等の重点分野k により分解すると、 = ? k k P P , = 1 Δ Δ ? k kP P ・・・(3) と表せる。 図2.4.3 は⊿Pk /⊿P の経年変化、すなわち全契約件数の変化に占める各研究分野の契 約件数変化比率の推移を示したものである。なお、2.3 項で述べたように、重点分野に沿っ た調査は2001 年度から開始されたことから、図は2002 年度から作図している。また2004 年度は重点推進4 分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料) 以外の分野は「その他」として括られて実績を調査していることから、エネルギー、製造 技術、社会基盤、フロンティア、並びに、その他の2005 年度の値は2003 年度値と2005 年 度値の差分で表している。 図2.4.3 より、2001 年度以降の共同研究の成長に対して、8 分野の中でもライフサイエ ンス分野の寄与が高いことがわかる。ナノテクノロジー・材料分野は2004 年度にはライフ サイエンス分野を抜く寄与を示したが、年度ごとに波があり、その波も減衰気味である。 逆に、近年、製造技術分野が勢いを増している。情報通信、環境分野は2004 年度以降、全 契約件数の変化に対する寄与率は低迷している。それぞれ、2007 年度は2001 年度の1.7 倍 と1.6 倍程度となっているが、社会基盤、フロンティアを除く他の分野の伸びに追いつい ていないためである。 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 2002 2003 2004 2005 2006 2007 ライフサイエンス 情報通信 環境 ナノテクノロジー・材料 エネルギー 製造技術 社会基盤 フロンティア その他 ⊿Pk/⊿P 図2.4.3 全契約件数変化に占める各研究分野の契約件数変化の比率の推移 - 12 - 2.4.3 民間等連携先の寄与 次に、大学の研究連携先となる民間等ごとの寄与を見てみる。 これも研究分野と同様に、共同研究の契約件数P を民間等区分i により分解する。 = ? i i P P , =1 Δ Δ ? i iP P ・・・(4) 図2.4.4 は、(4)式に基づき契約件数の変化に占める民間等の件数の変化の推移を示し たものである。 図より、共同研究制度の創設以来、民間等区分「会」、すなわち国内営利企業(以降、「企 業」と略す)の変化が全実施件数の変化を決定している。 他の5 区分(団・地・独・学・他)の寄与は僅かであるが、1993 年度以降「団」や「独」に おける変化の寄与も増えてきている。(区分の内訳は2.3 項参照。2004 年度に「団」と「独」 が特異値となっているのは、独を団に含めて調査が行われたためである。) -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 会 団 独 地 他国 ⊿Pk/⊿P 図2.4.4 全実施件数変化に占める各民間等区分の実施件数変化の比率の推移 2.5 研究経費 図2.5.1 に共同研究経費(合計)と1 大学当たりの経費の推移を示す。ここで研究経費 には、民間等機関から研究員を受け入れる場合の員費は含まれていない。また、経費デー タの保管のある1995 年度以降を示している。 共同研究経費(合計)は、件数の増加に比例して推移しており2007 年度には1995 年度 の11.5 倍(件数は8 倍)となっている。 - 13 - また、1 研究当たりの研究経費も増加傾向にあるが、2004 年度以降は250 万円を天井に 頭打ちとなっている。 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 共同研究経費(合計) 研究経費/件 共同研究経費(合計) 年度 共同研究1件当たりの研究経費 (百万円) (百万円) 図2.5.1 研究経費の推移 2.6 まとめ 本章では1983 年度から2007 年度までの25 年間に行われた共同研究を対象に、いくつ かの変数の推移を観察し成長要因の分析を行った。ここで得られた知見は以下の通りであ る。 (1)共同研究の契約件数は、制度開始以降、前年度より減少に転じたことはなく、特に、 1990 年代半ばから著しく増加している。しかし、前年度件数との差分では、近年、単 調増加ではなく振動傾向にあり、その動きと経済環境、産学連携を支援する関連法等 の施行時期を重ね合わせて見ると、それらの要素が大学と民間企業両者の産学連携に 関する意識に影響を与えていることが推測できる。 (2)共同研究を行う国立大学は、1988 年度までに理工系学部を保有する大学(大規模大学、 中規模大学、理工系中心大学が該当)の殆どが共同研究を開始しており、未実施大学 は、教育大学、文科系中心大学、医科大学となっている。それらの未実施大学は以降、 ぽつぽつと非連続的ではあるが共同研究に参加し、2007 年度は82 の国立大学法人のう ち76 大学で共同研究を実施している状況となった。ちなみに、実施していない6 大学 のうち、5 大学は教育大学となっている。 (3)研究分野別では、特にライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、製造技術の3 分 野で共同研究が増加している。 - 14 - (4)共同研究における大学の連携先である民間等の区分では、企業との連携が圧倒的に多 く、1980 年代は契約件数の90%超、以降、1996 年度から2003 年度は80%を若干割り込 んだが、ほぼ80%台の占有率で推移している状況にある。 (5)共同研究の成長要因として、1990 年代以前は共同研究を実施する大学の増加が、以降 は大学当たりの平均契約件数の増加が共同研究の成長に寄与している。 また、研究分野では、2001 年度以降の共同研究の成長に対して、8 分野の中でも特に ライフサイエンス分野の寄与が高い。ナノテクノロジー・材料分野は2004 年度にはラ イフサイエンス分野を抜く寄与を示したが、年度ごとに波があり、その波も減衰気味 の状況にある。 大学の連携先では、当然、圧倒的多数である企業の件数変化が全実施件数の変化を決 定することになる。 (6)共同研究経費は、件数の増加に比例して推移しており、2007 年度には1995 年度の11.5 倍(件数は8 倍)となった。また、1 研究当たりの研究経費も増加傾向にあるが、2004 年度以降は250 万円を天井に頭打ちとなっている。 第3章 国立大学の法人化前と後の変化 - 15 - 第3章 国立大学の法人化前と後の変化 1990 年代半ば以降、イノベーション創出のために産学連携活動が活発化した。特に国立 大学は2004 年の法人化以降、産学連携活動を大学の第三のミッションである社会貢献活動 として捉え、自主的な取り組みが行われている。政府の関連施策もあり、多くの大学で知 財本部が設置され、そこでは知的財産管理・活用や産学連携活動が実施されている。 国立大学の法人化は、国立大学の運営に自主性を与え、各々の特色に基づいた教育・研 究・社会貢献を実施させること可能にしており、産学連携も各国立大学の特色を反映した ものに変化・変質していることが推測される。 また、地域イノベーションシステム/地域クラスターの産学官連携活動の中核として期待 されることの多い地域の国立大学にとって、当該地域の企業等との連携はまさに地域貢献 であり、加えて外部資金獲得の手段となりうることから、その進展が期待されている。 しかしながら、このような国立大学法人化が産学連携活動に与えた影響に関して、実際 の産学連携に関するデータにより実証的に分析し示した例はほとんどない。 そこで、本章では、新産学連携データ・ベースのうち、共同研究データ・ベースを利用 して、国立大学の法人化の前と後の状況を対比し産学連携の実施状況の変化について考察 してみる。 3.1 共同研究契約の成長状況 国立大学の法人化前と後の共同研究契約の成長状況を視覚化して見るために、ポートフ ォリオ図の形式により大学ごとの状況を図3.1.1~3.1.3 に示した。 なお、本節では、1983 年度から2007 年度までの共同研究契約累積件数の上位20 校を対 象としている。また、文部科学省のホームページで公表された産学連携実績データに基づ いて作図している。 図では、法人化前として2003 年度(図3.1.1)を、法人化後として2005 年度(図3.1.2) を、さらに、法人化後4 年目に当たる2007 年度(図3.1.3)の3 つの年度を代表としてそ れぞれの年度の成長状況を示している。成長は各年度の2 年前の状況と比較してどれだけ 成長したか、すなわち、それぞれ2001 年度、2003 年度、2005 年度と対比した成長状況を 表している。 また、図の横軸は代表年度の全国立大学合計契約件数を基準とした占有率を、縦軸は比 較年度の契約件数に比した代表年度の契約件数の成長率を表している。バブルの大きさ(面 積)は当該大学の共同研究経費(除員費)を表し、かつ、各図とも2007 年度の東京大学の 共同研究費を基準とする大きさで表している。 - 16 - 95~07年度累積件数上位20大学 三重大東京大 岐阜大 金沢大 大阪大 京都大 東北大 九州大 名古屋大 東工大 北海道大 農工大 山口大 筑波大 静岡大 名工大 広島大 岩手大 千葉大 神戸大 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 占有率 (%) 成 長 率   (% ) 図3.1.1 法人化前(2003 年度)の共同研究の成長状況 (2001 年度比) 東京大 大阪大 京都大 東北大 九州大 名古屋大 東工大 北海道大 山口大農工大 筑波大 三重大 静岡大 名工大 広島大 岩手大岐阜大 千葉大 神戸大 金沢大 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 占有率 (%) 成 長 率   (% ) 図3.1.2 法人化後2005 年度の共同研究の成長(法人化前2003 年度比) 東京大 大阪大 京都大 東北大 九州大 名古屋大 東工大 北海道大 山口大 筑波大 三重大 静岡大 名工大 広島大 岩手大 岐阜大 千葉大 神戸大 金沢大 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0 占有率 (%) 成 長 率   (% ) 図3.1.3 法人化後2007 年度の共同研究成長(2005 年度比) - 17 - 法人化前年度である2003 年度(図3.1.1)の成長状況は、東京大学とその他大学群の2 つの括りで見ることができる。これは、東京大学の契約件数が他大学を圧倒しているため に、他大学が相対的に左寄りに位置付けられた所以である。成長率は150~200%の大学が多 く、中でも広島大学、岐阜大学の成長率が200%を越えているのが目立つ。逆に、東京農工 大学、岩手大学、山口大学といった共同研究制度の開始当初から積極的に共同研究を実施 し、共同研究の盛んな大学として位置付けられている大学が、成長はしているものの、他 大学に比してその度合いが鈍くなっている傾向が見られる。 法人化後の2005 年度(図3.1.2)では、東京大学のポジションは2003 年度と同様である が、他の大学群から名古屋大学を除く旧帝大5 校(大阪大学・京都大学・東北大学・九州 大学・北海道大学)と東京工業大学が占有率において一歩抜け出してきた。 成長率は2003 年度に比して若干下がり気味であるが、それでも多くの大学が150%近辺に 位置づけられている。広島大学、岐阜大学の成長率は120~130%に鈍化した一方で、東京農 工大学、山口大学といった大学が再び盛り返してきた様子が見て取れる。 契約件数の成長とともに、筑波大学、神戸大学、名古屋工業大学、山口大学といった大 学は共同研究経費も2 倍以上に増加したが、一方で岐阜大学、名古屋大学はほぼ横這いの 状況にある。 2007 年度(図3.1.3)は、占有率では大阪大学・京都大学・東北大学・九州大学という 順で旧帝大の一部大学が東京大学との差を詰め、他の大学とは別のグループを構成した。 東京大学は、全大学の合計件数の増加と同期した成長をしており常に8%程度の占有率を保 っている。 成長率は2003 年度、2005 年度に比して各大学ともかなり鈍化し、マイナス成長に転じた 地方大学も出始めた。共同研究経費は、件数の増加ほどに増えておらず、逆に2005 年度よ りも少なくなっている大学が6 校もある。 以上より、共同研究契約件数の上位20 校に見る国立大学の法人化前と後の共同研究契約 の成長状況は次のように纏められる。 (1)占有率の状況として、法人化前の東京大学とその他の大学群の2 群構造から、法人化 後は一部の旧帝大グループ(大阪大学・京都大学・東北大学・九州大学)の占有率の 拡大による中間グループの構成により、「東京大学/一部の旧帝大グループ/その他の大 学群」の3 群構造に移行している (2)法人化後の成長率は、法人化前に比して大幅に低下してきた。150%程度の成長率を保 っているのは上記一部の旧帝大グループくらいであり、地方大学ではマイナス成長と なった大学もある。 - 18 - (3)共同研究経費(20 大学合計)は法人化前(2003 年度)に比して法人化後(2007 年度) は2 倍強に増えている。しかし、状況は大学ごとにまだら模様であり、中規模大学や 東京工業大学を除く理工系大学では件数の増加に比例した形にはなっていない。 3.2 共同研究契約の成長の鈍化 2004 年度の国立大学の法人化以降も、図2.1.1 に示したように、契約件数自身は増加し ている。しかしながら、前項で述べた如く、成長率は法人化後に鈍化傾向となり、2007 年 度にはマイナス成長となった地方大学もある。 1983~2007 年度の累積共同研究契約件数の上位50 校を対象に、大学の類型別(Appendix B 参照)に対前年度の増加件数を見ると(図3.2.1)、中規模大学で鈍化傾向が顕著となっ ている。なお、上位50 校には、大学の類型のうち文系中心大学、医科大学、教育大学に属 する大学は入っていない。 また、地方の中規模大学では、特に理工系分野において共同研究ができる人材は既に共 同研究を実施しており、さらに共同研究を増加させるためには人的資源(研究者数)を増 やす必要があるとの声も聞かれるようになってきた。 大学の類型別に研究者数と共同研究契約件数の相関を算出すると表3.2.1 のようになり、 中規模大学における研究者数と契約件数の相関が他の大学類型よりも強いことが確認でき る。勿論、この相関係数が直ちに人的資源の不足を意味することにはならないが、成長の 鈍化と合わせてみると、中規模大学の共同研究の実情を示唆する一つの指標となろう。 -10 0 10 20 30 40 50 60 70 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 大規模大学 中規模大学 理工系中心大学 前年度からの増加件数(類型ごとの平均) 年度 (件) 図3.2.1 前年度からの共同研究契約の増加件数(大学類型別) - 19 - 表3.2.1 共同研究契約件数と研究者数の相関 大学類型 大学数 相関係数 (平均値) 大規模大学 13 0.513 中規模大学 27 0.707 理工系中心大学 10 0.370 1993~2006 年度科調統計の研究者数データ及び共同研究データ・ベースの契約件数データより算出 3.3 国立大学法人化の前と後(共同研究実施状況の変化の確認) ここでは、法人化後の国立大学の運営方針が産学連携の実施方向に与えた影響を検証す るために、国立大学法人化の前と後の共同研究のデータを用いて変化を確認する。 確認は、共同研究の主要な連携相手である企業との共同研究の状況(企業比率、中小企 業比率、企業業種)、共同研究の技術分野、および、地域の企業業種分布に応じた連携状況 を対象に行う。 なお、ここで変化の確認対象とした大学は、1983~2007 年度の累積共同研究契約件数の 上位50 校であり、大規模大学、中規模大学、理工系中心大学の3 つの類型で確認する。 3.3.1 企業との共同研究 (A) 企業との共同研究 図3.3.1 は国立大学が実施する共同研究について、企業と契約する共同研究の件数の割 合と企業との契約件数のうち中小企業が占める割合を軸に、法人化前と後の変化をベクト ル図で示したものである。 なお、法人化前は2000~2003 年度の4 年分の研究契約で評価し、同じく、法人化後は2004 ~2007 年度の4 年分の研究契約で評価している。 また、図において、ベクトルの起点が法人化前のポジションを、終点が法人化後のポジ ションを示している。 図3.3.1 より、縦軸方向ではベクトルが上向きの大学が殆どであり、企業と実施する共 同研究の割合は、法人化後、僅かな大学を除いて増加傾向にあることが読み取れる。 この法人化前と後の企業との共同研究の実施状況の差を大学類型ごとに検定した結果 は、表3.3.1 に示す通りであり、大規模大学は1%水準で有意差有り、中規模大学は5%水準 で有意差有り、理工系中心大学では有意差無しの結果を得ており、大規模大学と中規模大 学では、帰無仮説「法人化前後の2 つのデータ群に差がない」を棄却し、法人化前後の企 業と共同研究する割合は有意な差がある、すなわち大学が企業と実施する共同研究の割合 は増加していると結論される。 なお、検定はデータの正規性が証明できなかったことから、ノンパラメトリックな検定 (Wilcoxon の符号付順位和検定)で実施している。 - 20 - 0 20 40 60 80 50 60 70 80 90 100 中小企業との共同研究実施率 企業との共同研究実施率 (%) (%) 大規模大学 中規模大学 理工系中心大学 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 中小企業との共同研究実施率 企業との共同研究実施率 (%) (%) 図3.3.1 国立大学法人化前後の企業との共同研究実施率 表3.3.1 国立大学法人化前後の企業との共同研究実施率の検定結果 大学類型 企業との共同研究実施率 中小企業との共同研究実施率 大規模大学 p = 0.0024 < 0.01 p = 0.6496,n.s. 中規模大学 p = 0.0174 < 0.05 p = 0.9808,n.s. 理工系中心大学 p = 0.0745,n.s. p = 0.2026,n.s. 一方、企業と実施する共同研究件数に占める中小企業の件数の割合は、図3.3.1 の横軸 方向に見るごとく、大学によって増減が一様でない状況であり、検定結果も表3.3.1 に示 すように、何れの大学類型においても法人化前後で有意な差はでていない。 このことから、企業と行う共同研究の中で、中小企業の占める件数の割合は法人化後も 変化がなく、企業との共同研究というパイは大きくなっていても、内訳として中小企業の 技術支援等に重点を移した共同研究とするような構造的な変化は起きていないと推測でき る。 (B) 地域内企業との共同研究 図3.3.2 は、大学の地域内貢献の観点から、大学と同一地域(ここでは同一都道府県を 前提とする)に所在する企業との共同研究について、法人化前(ベクトルの起点)と後(ベ クトルの終点)の変化を示したものである。なお、ここでは企業の所在地は本社の所在地 として評価している。(縦軸は大学の共同研究件数に占める地域企業の件数の割合、横軸は 地域企業との共同研究件数に占める地域中小企業の件数の割合をしめす。) - 21 - また、法人化前は2000~2002 年度の3 年分の研究契約で評価し、同じく、法人化後は2005 ~2007 年度の3 年分の研究契約で評価している。前掲の「(A)企業との共同研究」と異なり、 2003 および2004 年度を含めていないのは、同年度に地域内連携の調査が実施されなかった ためであり、単純にデータが存在しないことによる。 図3.3.2 では、縦横両軸方向とも各大学のベクトル方向が一様ではなく、バラけた状態 にある。 大学類型で法人化前後の差異の検定を行っても、表3.3.2 に示すように地域企業との共 同研究実施率でも、地域中小企業との共同研究実施率でも有意な差はでてこない。 これらのことから、大学の社会貢献で一番にテーマアップされる地域への貢献に関して、 地域内の共同研究の実施率は法人化後も変化はなく、ここでも地域内の企業貢献を中心に 共同研究の連携先を転換するような構造的な変化は起きていない(既存路線の延長)と推 測できる。 0 20 40 60 80 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 地域中小企業との共同研究実施率 地域企業との共同研究実施率 (%) (%) 大規模大学 中規模大学 理工系中心大学 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 中小企業との地域内連携率 企業との地域内連携率 (%) (%) 図3.3.2 図3 大学法人化前後の地域企業との共同研究実施率 表3.3.2 国立大学法人化前後の地域企業との共同研究実施率の検定結果 大学類型 地域企業との 共同研究実施率 地域中小企業との 共同研究実施率 大規模大学 p = 0.6496,n.s. p = 0.1159,n.s. 中規模大学 p = 0.7548,n.s. p = 0.0926,n.s. 理工系中心大学 p = 0.7671,n.s. p = 0.1688,n.s. 以上(A)、(B)の検定結果のまとめとして、法人化後の国立大学の共同研究の実施 方向は、企業との共同研究を増やしている傾向にあるが、その内訳は法人化前と変化して - 22 - おらず、特に中小企業を中心に技術支援が行われ始めたとか、地域内の企業と連携する傾 向が強くなるといった変化は起きていないと推測できる 次に、図3.3.1 について、クラスター分析により法人化前後の企業との共同研究実施率 が類似した特徴を持つ大学を分類してみる。(図3.3.3) ここではクラスターは大きく3 つに分けることができ、さらに、それらの特徴は表3.3.3 のようにまとめることができる。大きな括りで見れば、クラスター1 は大規模大学の特性を、 クラスター2 は大規模大学を除く企業集積度の高い大都市圏に所在する大学の特性を、クラ スター3 は首都圏から遠距離にある地方大学の特性といえる。 0 20 40 60 80 100 50 60 70 80 90 100 クラスター3 クラスター1 クラスター2 中小企業との共同研究実施率 企業との共同研究実施率 (%) (%) 大規模大学(11) 中規模大学(1) 理工系中心大学(0) 大規模大学(2) 中規模大学(15) 理工系中心大学(6) 大規模大学(0) 中規模大学(11) 理工系中心大学(4) 図3.3.3 企業との共同研究で類似した特徴を持つ大学 表3.3.3 各クラスターの特徴 クラスター1 クラスター2 クラスター3 大学 大都市圏に所在する大規 模大学。中規模大学も首都 圏に所在。 地方圏に所在する大規模 大学。比較的企業集積度の 高い地域の中規模大学。 大都市圏の理工系中心大 学。 中規模大学、理工系中心大 学とも、東京から比較的遠 距離に所在する大学。 法人化前 団体・地公体等との連携が 比較的多い。 企業は大企業中心。 団体・地公体等よりも企業 との連携が中心。企業は大 企業が主体。 団体・地公体等との連携が 比較的多い。 企業は中小企業を中心に 連携。 法人化後 企業との連携率が大きく 増加。 一方で、中小企業比率は横 這い。 企業との連携比率は増加。 中小企業比率は微増。 企業との連携比率は微増。 中小企業比率は微減。 - 23 - 3.3.2 共同研究の技術分野と相手先企業業種 次に、共同研究を実施する領域の法人化前と後の変化を評価するために、技術分野(ラ イフサイエンスなど)、および、連携相手である企業業種を取上げ、それらの評価指標とし て、Jaffe(1986,1989)iの技術的類似性計測の考え方を利用して検証した。 Jaffe は、企業間の技術的な類似性を計算するために、企業の技術ポジション (technological position)を(1)式のベクトルF で定義した。ここで、FK は分野k に充 てられた研究開発費である。 F = (F1, F 2,・・・, Fk ) ・・・(1) さらに、Jaffe は、技術ポジション・ベクトルF の内積を用いて、i 企業とj 企業の距 離Pij を(2)式のように定義している。Pij は、0 から1 の値をとり、両企業の技術ポジシ ョンが類似しているほど、1 に近づくことになる。 Pij = Fi・Fj /[(Fi・Fi)(Fj・Fj)]1/ 2 ・・・(2) ここでは、これを応用して法人化前をi、後をj として、技術分野、および、連携相手の 企業業種の類似性をみるためPij を計算した。なお、Pij は大学の共同研究の実施領域の距離 を意味することから、ここでは「領域距離(field position)」と称することにする。 技術分野と相手業種に関する領域距離を、法人化前i を2001~2003 年度の研究開発費の 和で、法人化後j を2005~2007 年度の研究開発費の和として、それぞれ計算した結果を図 3.3.4 に示す。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 相手業種の法人化前後の領域距離 技術分野の法人化前・後の領域距離 Pij Pij 大規模大学 中規模大学 理工系中心大学 法人化前後で相違大 法人化前後で相違大 図3.3.4 技術分野と相手先企業業種の類似性 i Adam B. Jaffe(1986)"Technological Opportunity and Spillovers of R&D: Evidence from Firms' Patents, Profits and Market Value", American Economic Review, Vol.76, No.5, pp.984-1001. Adam B. Jaffe(1989)"Characterizing the Technological Position of Firms with Application to Quantifying Technological Opportunity and Research Spillovers", Research Policy, Vol.18,pp.87-97. - 24 - 図3.3.4 において、領域距離で0.7 以下(ベクトル間の角度が45°以上)を相違してい ると仮定すると、多くの大学が法人化前と後で大きな変化がない中で、一部の中規模大学 (地方大学が中心)が法人化前とは異なる領域で共同研究を実施していることがわかる。 共同研究の技術分野で相違領域に位置付けされた大学は、法人化前に比してライフサイ エンス分野の共同研究費の伸びが大きい共通項を持っている。また、次いでナノテク・材 料といった新技術分野での共同研究が増えている大学である。 相手先業種では、サービス業などが減じた一方で、製造業との共同研究費が4~8 倍に増 えた大学が相違領域に位置付けられている。 技術分野、相手先業種ともに法人化前後に相違領域で共同研究を実施しているとして位 置づけられた中規模大学は2003 年度に医科大学と統合された大学であり、その影響も考え られる。また、技術分野で相違領域に位置づけられた大学にも2003 年度に医科大学と統合 された大学があり、統合前後のライフサイエンス分野の共同研究費の違いが結果として表 れている。なお、全ての医科大学と統合された大学が法人化前後で異なるポジションに位 置づけされた訳ではなく、上記の2 大学のみである。 3.3.3 地域の企業業種分布と比した大学の共同研究方向 大学が地域内の企業と実施している共同研究の方向性について、その地域に所在する企 業分布(ここでは、業種ごとの企業分布)との類似性を評価した。 評価指標は前項と同様に領域距離を用い、大学の地域内連携した共同研究契約を示すベ クトルをFi (業種ごとの研究経費がベクトル要素)、地域の企業の業種分布を示すベクトル をFj(業種別企業数がベクトル要素)として領域距離Pij を計算した。 なお、ここでは法人化前後を比較する代表年度として2001 年度、および、2006 年度のデ ータを用いた。これは、地域の企業分布を示すデータとなる総務省の事業所・企業統計調 査の調査年度に合わせたことによっている。 図3.3.5 は、大学ごとにそれぞれの年度のPij をX、Y 座標としてプロットした結果であ る。図の右上角から左下角の斜線(実線)、および、点線(実線を中心に領域距離±0.1 の バンド)は、その近傍に大学がプロットされていれば法人化前後で地域内の共同研究連携 先企業に業種面では変化がないことを示す目安としたものである。ただし、厳密には、ど ちらかの年度を基準として領域距離を計算したものではなく、それぞれの年度のデータを 使っているため、バンド内にあれば「法人化前後とも、(その年度の)地域の企業分布に応 じた研究連携を行っている」と考えて良い。 より詳細に見ると、斜線(実線)の上側に位置する大学が下側に比してより多い傾向に あることに気付く。上側に位置する大学は2001 年度の領域距離よりも2006 年度の領域距 離の値が小さくなった大学であり、これは取りも直さず、法人化後は地域の業種分布とは 逆の方向で共同研究が行われる傾向にあることを意味している。 - 25 - この一つの要因として、地域の業種別の企業数が大きく変化しない反面、業種ごとの地 域内研究連携の経費は総じて増加傾向にあるものの業種によってバラツキのあること、特 に製造業の研究経費の増加が他業種よりも顕著であることがあげられる。これは、法人化 後の外部研究費獲得の努力の結果とも見られるが、ここでのデータからはそこまでの言及 はできない。 また、領域距離で0.7 以下の領域に位置づけられる大学として九州地方の大学が比較的 多くある。これは同地方で共同研究を実施するチャンピオン企業的存在があり、その企業 との実施する研究経費に影響を受けていることによる。 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 地域企業の業種による領域距離(2001年度) 地域企業の業種による領域距離(2006年度) 大規模大学 中規模大学 理工系中心大学 Pij Pij 2001年度の 地域企業の業種分布と相違大 2006年度の 地域企業の業種分布と相違大 法人化前より一致 法人化前より相違 図3.3.5 地域の企業業種分布と比した大学の共同研究方向 3.4 まとめ 上記のように、本研究の結果、国立大学法人化の共同研究創出に対する影響に関して、 一部の国立大学では、法人化の前後において、共同研究の特色が異なってきていることが 明らかになった。ここで得られた知見は以下である。 (1)国立大学の法人化前と後の共同研究契約の成長状況に関して、次の状況の変化が考察 できる。 ①全契約件数に占める大学契約件数の占有率として、法人化前は東京大学とその他 の大学群の2 極構造であったが、法人化後は一部の大規模総合大学グループ(大 阪大・京都大・東北大・九州大)の占有率が拡大して中間グループが構成された ことにより、「東京大/一部の大規模総合大学グループ/その他の大学群」の3 極 構造に移行した。 - 26 - ②法人化後の契約件数の成長率は、法人化前に比して大幅に低下してきた。2007 年度で150%の成長率を保っているのは上記一部の大規模総合大学グループくら いであり、地方大学ではマイナスに転じた大学もでてきている。 ③共同研究経費(上位20 大学合計)は法人化前(2003 年度)に比して法人化後の 2007 年度には2 倍強に増えている。しかし、大学ごとに状況は一様でなく、中 規模大学や東京工大を除く理工系大学では件数の増加に比例した形とはなって いない。 (2)共同研究の対前年度の増加件数は、中規模大学で鈍化傾向が顕著となってきた。中規 模大学の研究者数と契約件数の相関が、大規模大学や理工系大学に比してより強い相 関を示していることから、研究人材の不足が顕在化し始めている可能性がある。 (3)企業と連携して実施する共同研究の割合は、法人化後、僅かな大学を除いて増加傾向 にある。この法人化前と後の割合の差を検定すると、大規模大学は1%水準で有意差有 り、中規模大学は5%水準で有意差有り、の結果を得ている。このことから、大規模大 学と中規模大学で、法人化後に企業との共同研究指向が強めていることが伺える。な お、理工系中心大学では有意差がでていない。 (4)企業のうち中小企業と連携する割合は、法人化前後の検定で有意な差はない。このこ とから、大規模大学、中規模大学、理工系中心大学という群で評価したとき、法人化 後の契約件数の量的増加あっても、例えば、中小企業の技術支援に共同研究の軸足を 移すような構造的な変化は起きておらず、これまでの延長の中で連携が行われている と考えられる。 (5)企業と実施する地域内連携研究の割合についても、法人化前後で検定結果に有意な差 はでていない。大学の社会貢献で一番にテーマアップされる地域への貢献だが、ここ でも構造的な変化は見られない。 (6)共同研究の技術分野と相手先企業業種について、一部の中規模大学(特に地方大学) が法人化前とは異なる方向で共同研究を実施している。技術分野で法人化前と異なる 方向性を示す大学は、法人化前に比してライフサイエンス分野の共同研究費の伸びが 大きい共通項を持っている。また、次いでナノテク・材料といった新技術分野での共 同研究が増えている。相手先業種で異なる方向性を示した大学は、サービス業などが 減じた一方で、製造業との共同研究費が4~8 倍に増えた大学である。 (7)地域の企業業種分布と比した大学の共同研究方向について、法人化後は地域の業種分 布とは逆の方向で共同研究が行われる傾向にある。(業種ごとの研究経費で評価)この 一つの要因として、製造業の研究経費の増加が他業種よりも顕著であることがあげら れる。 第4章 地域別に見た研究連携状況 - 27 - 第4章 地域別に見た研究連携状況 前章3.3.1(B)で国立大学の法人化前(2000~2003 年度)に比して、法人化後(2004~ 2007 年度)も地域内の企業との連携状況に量的(件数)な変化はあっても構造的(質)に は法人化前の延長であり、変化はないと結論した。 ここでは、その結論を前提として、企業側から見た地域内の共同研究の状況について考 察を進めてみたい。 2003 年度以降、文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室が実施する 産学連携等実施状況調査では共同研究に関する個別の研究契約の調査は行われていない。 このため、大学の共同研究の連携相手となる企業の固有名詞や所在地、規模、業種などの 属性が不明であり、共同研究の状況は、民間等別(国内営利企業・独立行政法人・公益法 人・地方公共団体等)、企業規模別(大企業・中小企業等)、業種別(建設業・製造業等)、 分野別(ライフサイエンス等)の契約件数・受入額、および、地域内連携(同一県内)の 契約件数・受入額といった大きな括りでしか見ることができない。 一方、前章の分析結果から、大学の共同研究に占める地域内連携の割合や中小企業との 実施割合などにおいて、冒頭に記したように法人化後も変化はないという結論を得たこと から、1995~2002 年度までの個別研究契約の調査データを活用し、現在の地域別研究連携 状況はそれらの状況の延長上にあるとして、類推を試みる。 4.1 都道県別に見た企業の共同研究の実施状況 4.1.1 共同研究を実施した実績のある企業 図4.1.1 は、1995~2002 年度の間に大学等機関(国立大学、大学共同利用機関、国立高 等専門学校)と共同研究を実施した実績のある全企業数を分母として、都道府県別に共同 研究の実施企業数の割合を示したものである。ちなみに、ここでは共同研究の契約件数で はなく、研究実績のある企業の視点で分析しており、企業が当該期間に複数の共同研究を 行っている場合でも1 つの企業としてカウントしている。 共同研究を実施する企業は、当然ながら所在企業の絶対数が多い東京、大阪、愛知、神 奈川、北海道、福岡など、大都市や工業地帯又は工業地域のある都道府県の割合が高くな る。逆に、東北、山陰、四国といった地方圏に加え、都市圏であっても近畿地方の滋賀、 奈良、和歌山の実施企業の割合は低い。 なお、ここでは共同研究実績のある企業の所在地は本社の所在都道府県として分析して いる。大企業の場合、本社の所在地と異なる都道府県にある研究所や工場などが直接大学 と研究連携を行っている場合もあり、その意味では東京、大阪などは実際よりも企業数が 多くなり、それ以外は少なくなることを注記しておく。 - 28 - 図4.1.2 は、都道府県ごとの共同研究を実施した企業の中で中小企業が占める割合を示 したものである。この図では、図4.1.1 で共同研究を実施する企業数が多いとした都府県 (北海道は除く)、すなわち大都市圏では中小企業の割合が低くなり、逆に地方圏で割合が 高くなっていることが見て取れる。 (単位:%) 9 ~ 8 ~ 9 7 ~ 8 6 ~ 7 5 ~ 6 4 ~ 5 3 ~ 4 2 ~ 3 1 ~ 2 0 ~ 1 図4.1.1 共同研究の実施実績のある企業数の割合 90 ~ 100 80 ~ 90 70 ~ 80 60 ~ 70 50 ~ 60 図4.1.2 都道府県の共同研究実施企業に占める中小企業の割合 4.1.2 企業の共同研究実施状況の評価 図4.1.1、4.1.2 では企業数を直接扱っていることから、大都市圏、地方圏といった区分 において結果は予測の範囲となる。 そこで、ここではもう一歩進めて、企業集積の要素を薄め、共同研究実施度の違いを明 確に示すために、共同研究の実施企業数を「都道府県の企業数分布」のデータでバイアス をかけた評価をしてみたい。 - 29 - 評価結果は図4.1.3 に示す通りである。なお、ここで補正に用いた都道府県別の企業数 分布データは、総務省「事業所・企業統計調査」(2004 年度)を利用している。 また、図4.1.3 では、横軸は各都道府県の共同研究の実施実績のある大企業の数を都道 府県別の大企業数で除し、最小値となる県の値を基準(図では沖縄が最小値となる)とし て大企業の共同研究実施度を表している。 同様に、縦軸は中小企業の共同研究実施度を示している。(同様に福島が最小値となる) ここでは、考察の便宜上、図4.1.3 の都道府県をクラスター分析により4 つのクラスタ ーに分けて考察してみる。なお、クラスター分析はウォード法によっている。 0 2 4 6 8 10 12 14 0 2 4 6 8 10 12 14 16 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 新潟 富山 石川 福井 山梨 長野 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 福岡高知佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄 中小企業の共同研究実施度 大企業の共同研究実施度 クラスター1 クラスター4 クラスター3 クラスター2 図4.1.3 企業の共同研究実施度(都道府県別) クラスター1は、地域の企業数に比して共同研究実施実績のある大企業および中小企業 数の割合が高いクラスターである。同じクラスターに分けられているものの、内容的に東 京と他の3 県に区分できる。東京は共同研究実施実績のある企業数で他を圧しているが、 東京に所在する企業数も多いことから図のポジションに位置づけされ、逆に、他の3 県は 地域の大企業数、中小企業数ともに47 都道府県中下位であるものの、その企業数に比して 共同研究の実施実績のある企業が多い県と言うことになる。 クラスター2 は、大企業数については中位であるが、他よりも共同研究実績を持つ中小企 業の割合が高いクラスターである。ここでも内容的に北海道とその他の県に区分できる。 北海道は共同研究実績のある中小企業が多く、地域の中小企業数も47 都道府県の中で上位 であること、一方、他の県、特に山陰2 県では共同研究実績のある中小企業は少なく、地 域の中小企業数も47 都道府県中最下位2 県であるという逆の特性を持った道と県が同居す るクラスターである。 - 30 - クラスター3 は大企業、中小企業、ともに割合が低いクラスターである。特徴的なのは、 佐賀・大分を除く九州・沖縄地方の県がこのクラスターに属することである。 確かに福岡は図4.1.1 で共同研究実施企業数の割合が高い県に位置づけられるが、同時 に所在する企業数も多く、結果として図のポジションに位置づけされることになる。 クラスター4 は大企業の割合が比較的高い一方で、中小企業の割合が低い府県である。こ こには三大都市圏の府県が多く含まれる。 全体を通して、共同研究実施度が高く評価された地域は、文字通り実施度が高い地域と 統計上の所在企業数が下位(分母が小さい)の場合の二通りがある。 前者では同地域に共同研究実績の高い大学が存在する、すなわち地域内連携に力を入れ ている大学が存在する要素が大きく、後者の場合でも企業集積度にかかわりなく大学知を 活用しようとする企業の存在がこの結果を生んでいると考えられる。 4.1.3 企業の連携する大学等機関の数 次に、各企業はどの位の数の大学等機関と共同研究連携を行っているのであろうか。 図4.1.4 は、1995~2002 年度の間に各企業が共同研究連携した大学等機関の数(累積) を示したものである。横軸が、共同研究実績のある個々の企業を表し、縦軸はその企業が 連携した大学等機関の数を示している。従って、本来は離散表現で表すのが正しいが、こ こでは都道府県別に連続線として表している。 左上の図において、例えば、東京を例にとると、横軸には、東京所在の共同研究実績の ある企業(企業No.1 からNo.1397)が連携した大学等機関の数の少ない順に並び、縦軸に その企業ごとに連携した大学等機関の数を示している。他府県も同様な表現をとるが、企 業No は都道府県ごとの企業の並び順に振られた得た番号であり、同じ番号であったとして も同一企業を意味するものではない。 図4.1.4 の上段図から、10 機関を越えるような数多くの大学等機関と連携した共同研究 実績のある企業は、三大都市圏iiおよび地方圏の一握り企業に過ぎず、下段の中小企業の状 況と比すと、その全てが大企業であることがわかる。それら大企業は、必ずしも一般によ く知られた企業ばかりでなく、産学連携研究を通じて技術のブレークスルーを図る目的で 設立された企業も含まれている。 また、下段図から中小企業においても10 機関を越える大学等機関との連携を行っている 企業を見つけることができる。 それらの企業は中小企業基本法による区分は中小企業であっても、法人格を別にした大 企業の研究機関や複数の企業が共同出資した研究開発を主目的とした企業などである。こ ii首都圏:埼玉・千葉・東京・神奈川 中京圏:岐阜・愛知・三重 近畿圏:滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山 - 31 - うした結果から、中小企業の多くは、研究開発型の企業でない限り、特定の絞り込んだ大 学等機関と連携していることが伺える。 全企業 0 10 20 30 40 50 349 698 1047 1396 埼玉 千葉 東京 神奈川 岐阜 愛知 三重 京都 大阪 兵庫 企業が連携する大学等機関の数 共同研究の実施実績のある企業 0 10 20 30 40 50 60 120 180 240 宮城茨城北海道 群馬 富山 福井 山梨 長野 静岡 山口静岡 愛媛 福岡 佐賀 鹿児島 企業が連携する大学等機関の数 共同研究の実施実績のある企業 中小企業 0 10 20 30 40 50 1 248 495 742 埼玉 千葉 東京 神奈川 岐阜 愛知 三重 京都 兵庫大阪 企業が連携する大学等機関の数 共同研究の実施実績のある企業 0 10 20 30 40 50 1 72 143 214 北海道 岩手 山形茨城 石川群馬 福井 山梨 静岡 岡山 山口 愛媛 福岡 長崎 企業が連携する大学等機関の数 共同研究の実施実績のある企業 (三大都市圏) (地方圏) 図4.1.4 企業が共同研究連携する大学等機関の数 4.2 企業の地域内共同研究の実施状況 4.2.1 都道府県ごとの企業の地域内共同研究実施状況 共同研究の実施実績のある企業は、どの程度地元の大学等機関と地域内連携を行ってい るのであろうか、また、都道府県の枠組みを超えて地方レベルまで踏み込んで連携を行っ ている企業はどの程度あるのだろうか。 図4.2.1 は、共同研究の実施実績を持つ企業を対象として都道府県内と地方内の2 つの 軸で地域内連携の状況を示したものである。 - 32 - 横軸は共同研究実績のある企業のうち、企業と同一の都道府県に所在する大学等機関(国 立大学法人、大学共同利用機関、国立高等専門学校)と連携する企業の割合を、縦軸は企 業の所在都道府県を除く「同一地方」に所在する大学等機関と連携する企業の割合を示し ている。(但し、北海道は道=地方のため、同一地方の割合はゼロとして表している。) すなわち、縦軸では地元以外の近隣大学等機関と連携する企業がどの程度あるかを示し ていることになる。 ここでも考察の便宜上、各都道府県を点線で区分した3 つのクラスターに分ける。 クラスター1 は、企業が所在する都府県、または、近隣の都府県に有力な大学等機関が所 在する都府県で構成する。前者の例が東京、大阪、愛知などであり、共同研究を実施する 企業の数が多く、また企業規模も大小様々という都府県である。これら都府県に所在する 企業にとって、地元(同一都府県)に有力大学は存在するものの、受け入れ能力や連携方 針など中小企業を含めた様々なニーズの受け皿になってもらえる訳もなく、結果的に地元 で連携する割合は40%以下と他県に比して小さくなる。その分、都府県を越えた同一地方内 の大学等機関との連携に20%前後の企業が流れている。都府県を越えた連携は、特に関西地 区で顕著であり、例えば、大阪、兵庫の企業が京都大学と連携するケースや、その逆に京 都の企業が大阪大学や神戸大学と連携するなど、物理的に距離が近いことや充実した交通 機関など、他の地方とは違った地域の概念で連携が行われている。 後者(近隣の都府県に有力な大学等機関が所在する都府県)の例として、神奈川、埼玉、 奈良、滋賀、福島などがある。これらの県では、地元の大学等機関よりも所在地方内の大 学等機関と連携する割合が多い。これは前述の関西地区の例と同様に近隣都府県に有力大 学等機関が存在するためである。また、地元の大学の構成から、企業のニーズを吸収でき る研究受け皿がないことも一つの要因として考えられる。 クラスター2 は、企業の60%前後が地元の大学等機関と共同研究連携する県で構成する。 これらの県の同一地方内の大学等機関との連携割合(図の縦軸)は0~30%の間に散らばっ ている。この割合が小さいのは山梨、山口、長野といったところであるが、山梨、長野は 地方の括りを甲信越地方としたことが直接の要因であり、<前略、域内には核となる行政 や経済の中心地はなく、それぞれが個別に関東地方や東京と繋がっており、甲信越地方の 経済の中心地は東京であるとも言える、後略(以上、ウィキペディアの甲信越地方の概要 から引用)>の通り、地方内の連携率が小さい代わりに東京と連携する企業が10%前後あり、 他県に比べて高くなっている。山口はロケーション的な面もあり、県外の大学等機関との 連携は九州地方の大学等機関と実施する傾向が高い。 上記県とは逆に、香川、宮城、富山は同一地方内の大学等機関との連携割合が比較的高 い県である。これらの県の一部企業は、それぞれ徳島大学、岩手大学、金沢大学といった 共同研究実施実績の上位校と連携を行っており、これがこの結果を生んでいる。 クラスター3 は典型的な地方企業の大学等機関との連携パターンを持つ県で構成する。所 在する県の中で共同研究連携を行い、県の枠組みを超えた積極的な連携指向は薄い。 - 33 - 0 10 20 30 40 0 20 40 60 80 100 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 新潟 富山 福井石川 山梨 長野 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄 企業の所在地方内の大学等機関と研究連携 企業の所在都道府県内の大学等機関と研究連携 (%) (%) クラスター1 クラスター2 クラスター3 図4.2.1 企業の地域内共同研究状況(都道府県別) 4.2.2 大学・企業双方の視点で見た国立大学と企業の地域内共同研究連携の状況 次に、国立大学(1983~2007 年度の累積共同研究契約件数の上位50 校)と企業の地域内 共同研究連携の状況を、大学・企業双方の視点から表してみる。(図4.2.2) 図において、横軸は大学の視点であり、大学の共同研究のパートナーとなる企業のうち、 大学と同一の都道府県に所在する企業の割合を示している。 縦軸は企業の視点であり、企業が連携する大学のうち、地元の大学(企業と同一の都道 府県に所在する大学)と連携している割合を示している。 例えば、図中でAという記号を付した大学では、A大学が共同研究連携する企業のうち、 30%弱(横軸)が県内の企業であるが、A大学の所在県と同一の県に所在し共同研究を実施 する企業の約90%(縦軸)はA大学(地元の大学)を連携先としていると解釈する。 見方を変えれば、横軸では大学の地域内研究連携の指向度を、縦軸は地域企業の研究連 携先としての大学の認知度を示しているともいえる。 図を大括りした特徴をいえば、中規模大学は大学の地元企業との連携率よりも地元企業 のその大学との連携率が大きく(図の傾き1 で示した斜線の上方に1 大学を除いて位置す る)、理工系中心大学はその全く逆の傾向を示していることがあげられる。 中規模大学のうち、大学名ラベルが無きため分かり難いが、大学の地元企業との連携率 (横軸)が40%より大きい大学は、図4.1.2 に示した中小企業の共同研究が盛んな県に所在 する大学であり、大都市圏ではなく地方に所在する大学である。また、それらの大学は一 - 34 - つの企業と数多くの研究を実施している大学ではなく、件数は僅かでも広範に企業と連携 する傾向を持っている大学である。 40%以下の大学には、共同研究実施実績で上位に位置する大学と下位の大学が混在する。 上位大学はコンビナートなど工業地域が隣接している地域に所在する大学が多く、地元以 外の企業との繋がりも強いことから、相対的に大学の地元企業との連携率は低下するもの の、地元企業からは連携対象大学として一定の評価を得ている大学と言える。 理工系中心大学は、北海道と大都市圏(東京、名古屋、京都、大阪、福岡)という大学 の所在地が図における位置付けに大きく影響している。大都市圏では、共同研究を実施す る企業数が多く、また、選択肢となる大学も地理的、時間的な障害が小さく地域を越えた 連携大学の選択肢となり得るなどから「企業の地元大学との連携率(縦軸)」は下がる傾向 がある。北海道の場合は、道内が広く、また、複数の大学が所在することから、地域企業 の連携大学の選択も分散し、同様に企業側から見た大学個別の地域内連携率は下がってし まう。 理工系中心大学の地元企業との連携率(横軸)は、25~60%に分散するが、50%を越えて いるのは東京と北海道の理工系中心大学である。東京の場合は、企業の所在地を本社の所 在地として評価していることから数多くなる傾向があるのに対して、北海道は純粋に大学 の地元志向が表れていると考えられる。 大規模大学は、縦軸・横軸ともに連携率の低い領域に位置する。これは母数(当該大学 と共同研究連携する企業の数)に拠らない連携率として表した結果であり、他の大学類型 に比して企業の研究連携先認知度も大学の地域内研究連携指向度も低いという意味にはな らない。大規模大学の場合は、逆に、企業に広範に認知され、地域という概念を越えた連 携を行っていることからこの位置付けとなっていると考えられる。 0 10 20 30 40 50 60 70 0 20 40 60 80 100 大学の地元企業との連携率(都道府県) 企業の地元大学との連携率(都道府県) (%) (%) 大規模大学 中規模大学 理工系中心大学 A 図4.2.2 地域企業との研究連携状況(大学所在都道府県内で研究連携する企業) - 35 - 4.2.3 都道府県を越えた共同研究連携 図4.2.2 では、地域を都道府県内として大学と企業の共同研究連携の状況を見た。では、 都道府県を越えた共同研究連携はどの様な状況なのか、それを表したのが図4.2.3 である。 ここでは、地域を都道府県から地方に広域化しその状況を表している。 図4.2.3 の横軸は、例えば青森県に所在する大学が、青森県所在の企業を除いた残り東 北5 県に所在する企業との連携率を示している。(大学が100 企業と共同研究し、そのうち 10 企業が青森県以外の東北地方に所在するならば連携率は10%となる) 縦軸は、逆に、青森県を除いた東北5 県に所在する共同研究実績のある企業が青森県の 当該大学と連携する率を示している。(青森県以外の東北地方に所在する企業で共同研究の 実施実績のある会社が300 社有り、そのうち、15 社が青森県の大学と連携するならば連携 率は5%となる) 0 10 20 30 40 50 0 5 10 15 大学視点-県外(大学所在地方)企業との連携率 企業視点―県外(大学所在地方)企業との連携率 (%) (%) 大規模大学 中規模大学 理工系中心大学 図4.2.3 地域企業との研究連携状況(大学所在地方内で研究連携する企業) この地域内(地方内)連携は、企業・大学両者の視点で、10%を越えているのは一部地域、 一部大学のみで、極めて低調な連携状況にあるといえる。 一部地域とは関西地方であり、共同研究の盛んな有力大学が近隣府県に交通の便良く所 在していることから、企業も特にアクセス面での障害を意識せず研究内容に応じて大学と 連携を行っているようである。 ところが、東京周辺も同様の条件と考えがちであるが、隣接県所在の企業が東京の大学 と連携する数も、東京所在の企業が隣接県の大学と連携する数も関西地方のように高い連 携率となっていない。 - 36 - 一部大学とは、岩手大学と徳島大学である。両大学とも共同研究実績の上位校であり、 県内を越えた人的チャンネル作り等に努力している大学であることが結果に表れている。 4.3 まとめ ここでは、企業側から見た地域内の共同研究の状況を主体に、地域内連携について分析 した。この章で得られた知見は以下のようにまとめることができる。 (1)共同研究を実施する企業は、所在企業の絶対数が多い東京、大阪、神奈川、愛知、福 岡、およびその近郊の大都市圏など、工業地帯又は工業地域のある都道府県の割合が 高くなる。逆に、東北、山陰、四国といった地方圏に加え、都市圏であっても近畿地 方の滋賀、奈良、和歌山の実施企業の割合は低い。 (2)共同研究を実施する企業のうち中小企業が占める割合は、上記(1)とは逆に大都市 圏で低く、地方圏で高くなる。 (3)都道府県内で共同研究連携を行う企業数を、総務省統計の「都道府県の企業数分布」 でバイアスをかけると、企業の共同研究実施指向の高い地域が明確になる。これらの 地域では、単純に統計における所在企業数が下位(母数が小さい)の場合もあるが、 同地域に共同研究実績の高い大学が存在する、すなわち地域内連携に力を入れている 大学の存在が大きい。 (4)企業が共同研究連携する大学等機関の数にいて、10 機関を越える実績のある企業は三 大都市圏および地方圏の一握りの大企業に過ぎない。それらは、知名度の高い大企業 ばかりでなく、産学連携を通じて技術のブレークスルーを図る目的で設立された企業 も含まれる。中小企業は、研究開発型の企業でない限り特定の絞り込んだ大学等機関 と連携を行っている。中小企業にも10 機関を越す大学等機関と連携を行っている企業 は存在するが、大企業の研究機関(別法人)や複数企業の出資による研究開発を主目 的とした企業などである。 (5)企業が地域内(同一都道府県)の大学等機関と地域内で共同研究するパターンは都市 型と地方型の2 つに大別できる。都市型は、共同研究を実施する企業数も多いことか ら、大学等機関は企業の様々なニーズの受け皿になりきれず、結果的に地域を越えた 近隣の大学等機関に流れる傾向を持つ。地方型は、企業の地域の大学等機関と共同研 究を行い、地域を越えた積極的な連携指向は薄い傾向を持つ。 (6)大学の地域内研究連携の指向度と地域企業の研究連携先としての大学の認知度の指標 で何れも高い値を示すのは、中小企業の共同研究が盛んな県に所在する地方大学であ り、一つの企業と多くの研究を行うのでなく、件数は少なくとも広範に企業と連携す る傾向を持つ大学である。 (7)企業、大学両者の視点で都道府県を越えた共同研究の実施率を見たとき、両者とも10% を越えるのは在関西地方の大学が殆どである。関西地方は共同研究の盛んな有力大学 - 37 - が近隣府県に交通の便良く所在していることから、企業も特にアクセス面での障害を 意識せず研究内容に応じて大学と連携を行っている。一方、関東地方では関西地方と 異なり、東京隣接県所在の企業が東京の大学と連携する場合も、東京所在の企業が隣 接県の大学と連携する場合も関西地方のように高い連携率となっていない。 第5章 企業から見た共同研究創出に影響を与 える要素 - 38 - 第5章 企業から見た共同研究創出に影響を与える要素 大学と企業は立場が異なるため、研究契約に至るまでに様々な曲折がある。 研究成果を利用して最終的に利益をあげることを主眼とする企業にとって、リスクが伴う 研究への投資はできるだけ低く抑え、大学の資源(研究者、知的財産、設備等)を効率的に 活用し、成果の刈り取りを行いたいという本音の部分がある。 大学も、「大学知の社会化」という時代的趨勢、知的財産の取り扱いの厳密化、経営基盤 の強化策の手段として捉えるなど、双方の思惑の中で産学連携は実施されている。 この章では、大学と企業が研究契約に至るまでのプロセスで、特に企業の視点から連携相 手となる大学の選定に影響を与える要素について、共同研究データ・ベース、受託研究デー タ・ベース、および、産学連携等実施状況調査などのデータを活用して実証的な分析を試み る。 5.1 検証仮説と分析方法 5.1.1 仮説の設定 企業が特定の大学と研究契約を結ぶプロセスでは、図5.1.1 に示すように大学の産学連携 の活動母体を直接的に評価するのではなく、そうした活動をベースとして生み出される様々 な状況、例えば、自社の事業領域に貢献する可能性を持った研究が実施されているのか、大 学の知的財産を利用できるのか、経費はどれくらいかかるのか、技術移転のための支援体制 は充実しているのか、さらに、人脈の有無や大学の世間的・業界的評価など、を評価要素と して大学の評価と選択が行われる。 当然、企業ごとに業種や規模、さらに、経営状況、地域性等々の違いがあり、大学を評価 する視点も重要視する要素も一様とはならない。 このため、ここでは問題を、「共同研究を行う企業は、研究パートナーとして相応しいポ テンシャルを持つ大学を選択する。その結果が当該大学の共同研究件数、受託研究件数など の産学連携実績に反映される。」との前提に立ち、以下の仮説を設定する。 【仮説】 1.企業は、自己の事業、経営に対する貢献度の高い「知」を有する大学を研究連携の相手 として選択している。 2.貢献度の高い「知」を有する大学は、次のような様々な評価要素から総合的に決定され る。 ①求める成果を創出できる能力を有している(成果創出能力) ②事業化に有望な知財、Know How 等を保有し、活用できる(有望知財保有) ③技術移転するための組織・ルール等が整備されている(技術移転体制) - 39 - ④研究費負担、成果の知財権の取扱いの融通が利く (契約自由度) ⑤大学研究者との人的ネットワークが形成されている(人的チャンネル構築) ⑥地域産業に応じた現実的な研究指向をしている(地域貢献指向) 大学の産学連携活動母体 地域性・大学特性 成果創出能力 有望知財保有 契約自由度 人的チャンネル 地域貢献指向 技術移転体制 産学連携・知的財産管理 ポリシー 研究規程・知財規程 運用ルール 技術移転組織 研究資源 (人・もの・金) 企業による大学の 産学連携ポテンシャルの評価 大学が優れた研究能力 を有し、また、企業の求 める成果を創出してい るかを測る指標 企業が事業化に 活用できる有望 な知財やKnow How等を保有し ていることを測る 指標 研究連携にあたり、 研究費負担、成果 の知財権の取扱 いなど企業側の事 情も踏まえたフレ キシブルな対応の 可能性を測る指標 大学研究者との人 的つながりや、つな がりを持つための システム作りなど 人と人とのつながり を強化する活動を 測る指標 地域産業事情に応じた現実 的な研究指向を行い、また、 地域貢献のための技術講 習など地域の発展を支援す る活動実施の評価指標 産業界に技術移 転するための体 制・ルール等の整 備状況を評価する 指標 図5.1.1 企業による研究連携大学の評価) 5.1.2 検証する仮説 前述した仮説を企業の視点で分析するには、例えば産学連携の実施実績のある企業に対す るアンケート等から取得したデータを使用するのが正攻法であろう。しかし、2003 年度以 降、文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室で実施する「産学連携等実 施状況調査」では、それ以前の「民間等との共同研究実施報告書」で求めた大学のカウンタ ーとなる企業等の固有名詞の調査は行っていない。また、2002 年度に共同研究を実施した 企業数が約2600 社であったことから類推して、2007 年度は約5500 社の企業数が予測され ることも加え合わせると、企業アンケートは現実的、かつ即活用可能なデータ取得手段とは ならない。 このため、ここでは仮説に基づいた大学の評価、選択の要素を共通因子に持つと推測でき、 かつ筆者らがデータ取得の可能な観測変数を用いた限定的範囲で分析を試みることとした。 データの準備作業において、公開された、或いは、入手可能な産学連携関連情報から、各 大学の契約自由度、人的チャンネル構築度の2 つの評価要素と関係しそうな観測変数データ - 40 - の取得は困難であり、また、他の方法でも短時間に取得することが難しいことから、今回の 分析ではそれらの要素を含めた評価を断念している。さらに、仮説では、特に地域の中小企 業にとって、大学の地域産業に応じた現実的な研究指向は大きな大学の評価要素となるとし て、「地域貢献指向」を評価要素に置いたが、今回の分析では、被説明変数となる大学の企 業連携実績は企業との連携実績であり、地域内に絞った実績とはしないことから、これも分 析から外すこととした。 以上の通り、当初の仮説から縮小した範囲であるが、図5.1.2 に示す仮説モデルを対象に 検証を行うこととした。 なお、図の「産学連携ポテンシャル」は、「技術移転体制」以下の評価要素から総合的に 大学の産学連携ポテンシャルを判断し、研究契約に至る判断を行う潜在変数である。 また、「大学の産学連携実績」は大学の(企業との)共同研究件数、受託研究件数などの 被説明変数をまとめて潜在変数化するものであり、貢献度の高い「知」を有する大学の評価 要素とは別に、大学の規模や研究者の数などの影響を受けるため、人・もの・金を代表する 研究資源の要素をコントロール変数として加えている。 有望知財保有度 産学連携 ポテンシャル 技術移転体制 大学の 産学連携実績 成果創出能力 契約自由度 人的チャンネル 地域内連携指向 研究資源 図5.1.2 検証する仮説モデル 5.1.3 分析方法 仮説とした大学の評価要素を考慮して企業と大学との研究連携実績を説明するためには、 評価要素という潜在的な概念とその概念が影響を与えている観測変数との関係、さらに、概 念と概念の因果関係を取り扱いする必要がある。 このため、ここでは「構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling; SEM)」の 手法を用いて分析を行うこととした。 構造方程式モデリングは、近年、社会学、心理学などの分野で利用され、「直接観測でき ない潜在変数を導入し,潜在変数と観測変数との間の因果関係を同定することにより社会現 象や自然現象を理解するための統計的アプローチ。因子分析と多重回帰分析(パス解析)の拡 - 41 - 張。(狩野iii)」とされる手法であり、観測変数や潜在変数間に因果の仮説を設定することに よって観測変数の共分散行列が構造化されることから共分散構造分析 (Covariance Structure Analysis)ともいわれる。 従来の多変量解析は変数間の関係を解釈する帰納的な色彩の強い手法であるのに対して、 構造方程式モデリングは、事前の仮説や実際的な理論を出発点にして実証研究をするための 手法として位置づけられている。 なお、ここでは、分析のためのツールとして、SPSS Japan 社のAmos(Analysis of MOment Structure)を用いて実施している。 5.2 観測変数と潜在変数 5.2.1 観測変数とデータ取得 2006 年度(平成18 年度)の国立大学(1983~2007 年度の累積共同研究契約件数の上位 50 校)の企業との産学連携実績を説明する方針で、仮説の各評価指標から影響を受けてい ると推測される観測変数についてデータを準備した。ここで2006 年度を対象としたのは、 準備時点で、観測変数データが他年度よりも多く入手できたからで他意はない。 準備した約40 個の観測変数データのうち、極めて相関の高い観測変数(VIF:Variance Inflation Factor > 10 を目安)を排除し、次項に詳述する探索的因子分析により因子(共 通因子)の抽出と各因子が特に大きな因子負荷量を与えている幾つかの観測変数を特定し た。 特定した観測変数は表5.2.1 に示す18 の観測変数であり、これらの変数を使用して構造 方程式モデルの分析を行うことになる。 なお、表の観測変数のうち、No.15~18 の4 個の観測変数が仮説における被説明変数とな る。 表5.2.1 分析に利用した観測変数 No 観測変数名 内容 1 産学連携ポリシー 産学連携等実施状況調査(平成18 年度)の回答で、「産学連携ポ リシー」を定めている大学を1 とするダミー変数 2 ルール整備 産学連携等実施状況調査(平成18 年度)の回答で、大学の産学連 携に係る規程等の整備済とする回答の和を重みとするダミー変数 3 知財・産学連携推進体制 産学連携等実施状況調査(平成18 年度)の回答で、大学の産学連 携ポリシーの運用に関する各体制を構築済とする回答の和を重み とするダミー変数 4 契約書様式 産学連携等実施状況調査(平成18 年度)の回答で、成果有体物(マ テリアル)の契約様式の作成済とする回答の和を重みとするダミ ー変数 5 大規模大学 大学類型(Appendix B 参照)において、大規模大学に区分される iii狩野裕(2002),共分散構造分析の基礎と実際----基礎編,SSJ データ・アーカイブ 第6 回公開セミナ ー http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/seminar2002_1.pdf - 42 - 大学を1 とするダミー変数 6 運営費交付金 平成18 年度財務諸表による大学に交付された運営費交付金(金額) 7 研究者数 大学の研究者数(科学技術研究調査データから算出) 8 資金獲得力 「週間東洋経済」を参考として、大学の平成18 年度財務諸表から 以下の式を資金獲得力として計算した値。 資金獲得力=(受託研究等収益+受託事業等収益+寄付金収益) /経常収益 9 偏差値 インターネットの「大学偏差値ランキング2009」から理工学部を 基準として取得した値。 10 特許ライセンス数 産学連携等実施状況調査(平成18 年度)の知的財産のライセンス 等収入に関する回答で2006 年度中にライセンス契約した特許件数 11 特許ライセンス収入 同じく、2006 年度中にライセンス契約した特許により得た収入 12 特許取得件数(研究者当たり) 2006 年度科調統計の研究者数の動向データを使用した。 13 発明届出件数(研究者当たり) 産学連携等実施状況調査(平成18 年度)で回答された発明届出件 数 14 論文数(研究者当たり) NISTEP 調査資料-150「国立大学法人の財務分析」の第4-14 表 論 文数(2006 年)に掲載されたデータを使用した。 15 共同研究件数(企業) 共同研究データ・ベースより算出した、2006 年度に大学が企業と 実施した共同研究の件数 16 共同研究経費(企業) 共同研究データ・ベースより算出した、2006 年度に大学が企業と 実施した共同研究の受入金額 17 受託研究件数(企業) 受託研究データ・ベースより算出した、2006 年度に大学が企業と 実施した受託研究の件数 18 受託研究経費(企業) 受託研究データ・ベースより算出した、2006 年度に大学が企業と 実施した受託研究の受入金額 5.2.2 潜在変数(共通因子)と観測変数の選択 構造方程式モデリングに先立ち、仮説における大学の評価要素という潜在的な概念(潜在 変数)を測定するに適した観測変数の選択を行った。 ここでは、表5.2.1 の観測変数のうち、被説明変数である4 変数を除いた14 変数を対象 に探索的因子分析を行い、企業の研究連携大学の評価と選択に関する潜在的な構造を探って いる。 探索的因子分析の実施方法は次の通りである。 ①因子分析ツール:SPSS ②因子抽出法:最尤法 ③因子軸回転:プロマックス法(因子間の相関を許容する斜交回転) ④抽出因子数:1 以上の固有値を有する因子 因子分析の結果は図5.2.1 に示す通りであり、4 つの因子(共通因子)が抽出されている。 なお、以降、因子分析についての記述では因子・共通因子が、構造方程式モデリングでは 潜在変数という用語が使い分けられているが、何れも複数の観測変数に何らかの影響を与え ているものと仮定して推定される変数を意味しており同義と考えられたい。 - 43 - 抽出した各因子について、先行研究ivを参考に絶対値で0.4 以上の因子負荷量を示す変数 を基準に観測変数の選択を行った。 図5.2.1 に太枠で囲んだ値が基準以上の因子負荷量を示した観測変数である。 強く影響を受ける観測変数が因子ごとに分散して現れた中で、「資金獲得力」は因子1 (0.750)と因子2(0.452)に基準値以上の因子負荷量を示している。両因子間の相関が負 (-0.135)であることも考慮し、資金獲得力を因子1 と因子2 の共通した観測変数とするか 否かの判断は次に行う検証的因子分析の結果によることとした。 因子のスクリープロット 0 2 4 6 因子1 因子2 因子3 因子4 因子・ラベル 観測変数名成果創出能力研究資源有望知財保有技術移転体制 産学連携ポリシー0.189 0.119 0.079 0.443 契約書書式-0.335 0.243 -0.108 0.512 知財・連携推進体制0.044 0.307 0.075 0.594 ルール整備0.056 -0.002 0.304 0.739 著作権ライセンス収入-0.093 -0.098 0.602 0.240 特許ライセンス数0.003 0.176 0.868 -0.027 特許ライセンス収入0.011 0.103 0.936 -0.005 偏差値0.225 0.642 0.189 0.191 研究者数-0.090 0.777 0.317 0.071 運営費交付金-0.136 0.783 0.264 0.097 大規模大学-0.124 0.837 -0.137 0.098 資金獲得力0.750 0.452 0.176 0.026 論文数0.786 -0.051 -0.003 -0.143 特許取得件数0.928 -0.103 -0.072 0.074 発明届出件数0.933 -0.098 -0.059 0.119 4 .193 .296 .199 1.000 3 .078 .461 1.000 2 -.135 1.000 1 1.000 因子1 2 3 4 因子相関行列 因子負荷量 固有値 因子の番号 図5.2.1 探索的因子分析の結果 5.2.3 測定方程式モデルの検証 探索的因子分析によって得られた因子(共通因子)と観測変数間の関係の再検証、および、 4 個の被説明変数をまとめて単純化(潜在変数化)したモデルの検証を目的として、Amos を用いた検証的(確認的)因子分析を行った。これらは、仮説モデルを構成するパーツが適 正なパーツであることを検証する作業とも言える。 検証的因子分析は、潜在変数と観測変数間の因果関係を記述した「測定方程式モデル」を 作ることにより実施する。測定方程式モデルとは、潜在変数が複数の観測変数に影響を与え ている様子を記述したモデルであり、逆に言うと、観測変数によって潜在変数を測定してい るモデルということである。 Amos を用いた分析は、Appendix C の図C.1 に示すようにAmos のGUI を使って「パス図(変 数間の相互関係や因果関係を矢印で結び図に表したもの)」を描き、別途準備する観測変数 データと組み合わせて視覚的に実行することができる。パス図の四角は観測変数を、楕円は iv 例えば、参考文献13,14 など。 - 44 - 潜在変数を表し、変数間の関係を示す方矢印は因果関係を、両矢印は共変(相関)関係を表 している。 Amos により検証的因子分析(パラメータ推定は最尤法)を行った結果は表5.2.2 に一覧 として示した通りである。 各測定方程式モデルにおける潜在変数から観測変数へのパス係数(標準偏回帰係数)は全 て0.1%水準で有意となっている。 モデル全体の適合度を評価する指標はAppendix C の表C.1 に掲載した通りであり、これ に照らして、表5.2.2 の測定方程式モデルはNo.2-a のモデルを除いた全ての指標(AIC:赤 池情報基準を除く)で適合度の良好なモデルであると評価できる。(No.2-a は、AGFI が0.809 で、0.85≦AGFI を満たしていない。) No.2-a とNo.2-b は、5.2.2 項で懸案とした「資金獲得力」を因子2 の観測変数として含 めたモデルと含めないモデルであり、AIC を含む両者の適合度比較においてNo.2-b のモデ ルがより適合度の高い結果となった。この結果から、仮説に基づく構造方程式モデルでは、 潜在変数2(因子2)の観測変数に「資金獲得力」を含めないモデルで取り扱いを行う。 以上の分析結果から、探索的因子分析により抽出した潜在変数が、企業の研究連携大学の 選択に関する仮説をもとに選択した観測変数に対して強く影響を与えていることを検証で きた。 そこで、潜在変数ごとに選択された観測変数と企業の研究連携大学の選択に関する仮説を 踏まえ、潜在変数1(因子1)は「成果創出能力」、潜在変数2(因子2)は「研究資源」、潜 在変数3(因子3)は「有望知財保有」、潜在変数4(因子4)は「技術移転体制」としてラ ベル付けする。 また、被説明変数をまとめて潜在変数化したモデルは、各大学の産学連携実績に関する観 測変数をまとめたものであることから「産学連携実績」とラベル付けする。 表5.2.2Amos による検証的因子分析の結果 χ2 適合度検定 No 測定方程式モデル (パス図) p χ2/df RMSEA CFI GFI AGFI 1 潜在変数1(因子1) -成果創出能力- .94*** .75*** .62*** .99*** e1 発明届出件数 e2 特許取得件数 e3 論文数 e4 資金獲得力 0.586 0.535 0.000 1.000 0.990 0.948 2 a 潜在変数2(因子2) -研究資源- e3 研究者数 .76*** e1 大規模大学 .98*** e4 偏差値 .45*** e2 運営費交付金 1.00*** e5 資金獲得力 .76*** AIC=27.826 0.166 1.565 0.107 0.991 0.936 0.809 - 45 - b 潜在変数2(因子2) -研究資源- e3 研究者数 .76*** e1 大規模大学 .99*** e4 偏差値 e2 運営費交付金 1.00*** .76*** AIC=15.859 0.320 1.172 0.059 0.997 0.953 0.906 3 潜在変数3(因子3) -有望知財保有- e1 特許ライセンス数 .94*** e3 著作権ライセンス収入 .60*** e2 特許ライセンス収入 1.00*** 0.522 0.650 0.000 1.000 0.983 0.949 4 潜在変数4(因子4) -技術移転体制- e2 契約書様式 .47*** e3 知財・連携推進体制 .76*** e4 ルール整備 .83*** e1 産学連携ポリシー .55*** 0.623 0.473 0.000 1.000 0.990 0.950 5 被説明潜在変数 -産学連携実績- e3 共同研究費(企業) e2 受託研究件数(企業) e1 共同研究件数(企業) .89*** .88*** .97*** e4 受託研究費(企業) .79*** 0.559 0.341 0.000 1.000 0.997 0.965 観測変数 潜在変数 e 誤差変数 因果関係 共変(相関)関係 X1 F e2 X2 e1 0.78*** パス係数(標準偏回帰係数) ***:0.1%水準で有意 X1 = 0.78 * F + e1 5.3 モデルの適合度評価 5.3.1 仮説モデルの適合度 仮説に基づいた観測変数データの準備、探索的因子分析による共通因子の抽出と観測変数 の選択、検証的因子分析による測定モデルの検証、以上の準備作業を経た仮説モデルをAmos によりパス図として構成し、分析を実施する。 仮説モデルについて分析した結果を図5.3.1、および、表5.3.1 に示す。 図5.3.1 のパス図の部分評価では、「技術移転体制」から「産学連携ポテンシャル」、およ び、「有望知財保有」から「産学連携ポテンシャル」へのパス係数が有意な結果を得られて いない。 また、モデル全体の評価として、χ2 適合度検定のp 値が0.000 で有意となっていること から、帰無仮説(モデルは真のモデルに適合する)は棄却され、不適合なモデルであると結 論される。 - 46 - 運営費交付金 研究者数 契約書様式 .467*** 特許ライセンス収入 発明届出件数 .979*** .896***受託研究件数(企業) 知財・連携体制.803*** 資金獲得力 論文数 -.243n.s. .749*** ルール整備 .790*** 大規模大学 産学連携ポリシー 特許取得件数 .549*** 偏差値 共同研究件数(企業) 著作権ライセンス収入 .581*** .968*** d1 受託研究費(企業) 共同研究費(企業) .983*** d2 .254*** 1.000*** .984*** .774*** 特許ライセンス数 .963*** .966*** .814*** .283n.s. 1.000*** -. 253n.s. 1.000*** 技術移転体制 e2 e3 e4 e5 e6 e7 e8 e9 e10 e11 e1 e12 e13 e14 e15 成果創出能力 研究資源 産学連携 ポテンシャル産学連携実績 e31 e33 e34 .760*** e32 .632*** .969*** .633*** -.027n.s. .503*** .190n.s. 有望知財保有 .760*** *** 0.1%有意 ** 1%有意 * 5%有意 n.s. 非有意 観測変数 潜在変数 誤差変数 因果関係 共変(相関)関係 e 図5.3.1 仮説モデルの分析結果(パス図) 5.3.2 モデルの改善 不適合となった仮説モデルを改善するため、潜在変数間のパスの組合せから探索的に適合 する組合せを探り、取得したモデルが図5.3.2 である。 このモデルの部分評価では、パス係数は全て有意な結果を得ている。内訳として潜在変数 「成果創出能力」から「有望知財保有」へのパス係数のみが5%水準で、それ以外のパス係数 は全て0.1%水準で有意となっており、評価指標を満足している。 全体評価では、χ2 適合度検定において、p = 0.999 > 0.05 であることから帰無仮説は棄 却されず、かつ、RMSEA < 0.05、CFI > 0.97 でともにGood Fit の指標値をクリアしている。 残念ながら、GFI、AGFI の指標が僅かにクリアできていないが、総合的な評価は、極めて当 て嵌まりの良いモデルとまでは言えないが許容範囲のモデル(以降、改善モデルと称す)で あると評価できよう。 なお、検証的因子分析の結果から潜在変数「研究資源」の測定変数として「資金獲得力」 を除外したが、改善モデルでは含めた方がより良い適合度を示す結果を得ており、測定モデ ル単独の評価と差異が生じている。 - 47 - 運営費交付金 研究者数 契約書様式 .423*** 特許ライセンス収入 発明届出件数 .976*** .930***受託研究件数(企業) 知財・連携体制.803*** 資金獲得力 論文数 .856*** ルール整備 .761*** 大規模大学 産学連携ポリシー 特許取得件数 .521*** 偏差値 共同研究件数(企業) 著作権ライセンス収入 .522*** .968*** d1 受託研究費(企業) 共同研究費(企業) .978*** d2 .260*** 1.000*** .984*** .772*** 特許ライセンス数 .969*** .959*** .812*** .801*** .907*** 技術移転体制 e2 e3 e4 e5 e6 e7 e8 e9 e10 e11 e1 e12 e13 e14 e15 成果創出能力 研究資源 産学連携 ポテンシャル 産学連携実績 e31 e33 e34 e32 .968*** .788** 有望知財保有 .757*** *** 0.1%有意 ** 1%有意 * 5%有意 d5 d4 .590*** .448*** -.608*** .932*** d3 .638*** .157* .658*** 図5.3.2 改善モデルのパス図 表5.3.1 モデルの適合度 モデル 適合度指標 仮説モデル 改善モデル χ2 適合度検定 (χ2/df) p (2.222) 0.000 (0.631) 0.999 RMSEA 0.158 0.000 CFI 0.854 1.000 GFI 0.632 0.871 AGFI 0.520 0.794 AIC 412.453 217.052 5.3.3 改善モデルの考察 Amos では、分析結果として変数間の因果の効果の大きさ(影響度)が出力される。 改善モデルから得られた潜在変数間の効果を、直接効果(変数間に直接パスがある場合の 効果)、間接効果(他の変数を経由する効果)、総合効果(直接効果+間接効果)に分け、Amos の出力から表5.3.2 に転記した。 本表、および、図5.3.2 の改善モデルが示唆する主な事項は次の通りである。 (1)大学の「成果創出能力」が企業と大学の研究連携実現の鍵を握る評価要素である。 (「成果創出力」→「産学連携ポテンシャル」直接効果0.907) (2)「成果創出能力」は、企業が大学と研究連携を行う直接的影響を与える要素となるだ けでなく、産業界にとって有望な知的財産の創出(「有望知財保有」)にも影響を与え ている。(直接効果0.157) - 48 - この結果、僅かであるが「有望知財保有」を経由して企業と大学の研究連携に間接的 に作用する要素にもなっている。 (「成果創出能力」→「有望知財保有」→「産学連携ポテンシャル」間接効果0.071) (3)「有望知財保有」は、「成果創出能力」に次ぐ、研究連携実現の要素となっている。 (「有望知財保有」→「産学連携ポテンシャル」 総合効果0.448) 「民間企業の研究活動に関する調査(文部科学省)」の「研究協力の目的」に関する調 査結果で、「研究開発費のコストダウン」に次ぐ回答として、「社内で出せないアイデ ィアを求める」、「協力先の既存技術やノウハウ、知的財産権のライセンスを入手する」 を得ており、それらとも整合した結果となっている。 (4)技術移転に関する組織や知財の取扱い等の規程類の整備状況(「技術移転体制」)は大 学の産学連携の指向度を示す要素であるが、企業が連携大学を選択する際に直接的に 影響を及ぼす要素とはなっていない。 (「技術移転体制」→「産学連携ポテンシャル」 直接効果0.000) (5)しかし、「技術移転体制」は、「成果創出能力」を高める一つの要因として機能してお り(「技術移転体制」→「成果創出能力」 直接効果0.590)、「成果創出能力」を経由 して企業と大学の研究連携に間接的に作用する要素となっている。 (「技術移転体制」→「産学連携ポテンシャル」 間接効果0.577) (6)産学連携実績(共同・受託研究件数と経費)の多寡は、人・金・(もの)といった大学 の「研究資源」によって左右される要素が大きい。 (「研究資源」→「産学連携実績」 直接効果0.932) (7)「研究資源」の豊かさは「有望知財保有」や「技術移転体制」と因果関係を有してい る。(それぞれ直接効果0.801、0.638) 大規模大学ほど知的財産の保有件数が多く、また技術移転の取り組みにも力を入れて いることは想像に難くないが、一方で「研究資源」は「成果創出能力」と負の因果関 係であり(直接効果 -0.608)、また、検証的因子分析においても因子1(成果創出能 力)と因子2(研究資源)の相関も負値が算出(図5.2.1)されている。 これは、研究資源の観測変数のデータが大学の規模に比例した値を取るのに対し、成 果創出能力は規模の要素を廃した研究者当たりなどのデータであり、必ずしも大学の 規模と正比例の関係となっていない(この場合は反比例)ことによる。 - 49 - 表5.3.2 潜在変数間の効果 FROM TO 技術移転体制 有望知財保有 成果創出能力 研究資源 技術移転体制 - 0.000 0.000 0.638 有望知財保有 0.000 - 0.157 0.801 成果創出能力 0.590 0.000 - -0.608 研究資源 0.000 0.000 0.000 - 産学連携ポテンシャル 0.000 0.448 0.907 0.000 標準化直接効果 産学連携実績 0.000 0.000 0.000 0.932 技術移転体制 - 0.000 0.000 0.000 有望知財保有 0.093 - 0.000 -0.037 成果創出能力 0.000 0.000 - 0.376 研究資源 0.000 0.000 0.000 - 産学連携ポテンシャル 0.577 0.000 0.071 0.132 標準化間接効果 産学連携実績 0.150 0.117 0.254 0.034 技術移転体制 - 0.000 0.000 0.638 有望知財保有 0.093 - 0.157 0.765 成果創出能力 0.590 0.000 - -0.232 研究資源 0.000 0.000 0.000 - 産学連携ポテンシャル 0.577 0.448 0.977 0.132 標準化総合効果 産学連携実績 0.150 0.117 0.254 0.966 5.4 まとめ 全ての適合度指標をクリアしたモデルを得ることはできなかったが、許容範囲と考えられ る企業の研究連携大学の選択に影響を与える要素を説明する改善モデルを取得できた。 改善モデルは当初の仮説モデルを全否定するものではなく、因果の一部を修正したもの で、仮説と大筋整合的である。 勿論、モデルの適合度指標をクリアしても、それは仮説の因果関係が直接的に支持された 訳ではなく、観測変数データと構造方程式モデルが整合的であったということにほかならな い。 その意味で、仮説である「企業は、自己の事業、経営に対する貢献度の高い「知」を有す る大学を研究連携の相手として選択している」を証明したとするのは飛躍しすぎとしても、 限定した観測変数と潜在変数の下で、仮説に沿った因果関係が存在することを示唆する結果 は得られたと考える。 なお、観測変数データ取得の制約から、特に、技術移転の取組や人的チャンネル構築など ヒューマンなインタフェイスや現場の連携努力といった評価指標は置き去りになっており、 これらは今後の検証課題としたい。 Appendix - 50 - Appendix A 新産学連携データ・ベース 文部科学省科学技術政策研究所が行う調査研究に用いることを目的に、研究振興局環境・ 産業連携課技術移転推進室から提供された次の資料をデータソースとして電子データ化し 作成したものであり、共同研究データ・ベースと受託研究データ・ベースからなる。 A.共同研究データ・ベース ①民間等との共同研究実施報告書 1983 年度(昭和58 年度)から2002 年度(平成14 年度)まで ②産学連携等実施状況調査 2003 年度(平成15 年度)から2007 年度(平成19 年度)まで B.受託研究データ・ベース ③受託研究受け入れ実績報告書 1995 年度(平成7 年度)から2002 年度(平成14 年度)まで ②産学連携等実施状況調査 2003 年度(平成15 年度)から2007 年度(平成19 年度)まで ①および③は研究契約ごとに一葉又はリストの様式で記載したものであり、研究題目、概 相手先機関名(委託者名)、研究代表者名、分野、経費などが含まれる。 ②は国立大学として取りまとめした結果を記載する様式であり、相手先区分、業種別、分 野別等ごとに合計件数や経費合計が記載されるが、契約個別の内容は含まれない。 ①③と②では上記のように情報のレベルが異なるが、これらを一つの連続したFY 情報(25 年分)としてまとめたのが共同研究データ・ベースである。 なお、過去、①をデータ・ベース化したものを共同研究データ・ベース、③をデータ・ベ ース化したものを受託研究データ・ベースと称していたが、区別のため「個票」を付けた、 共同研究個表データ・ベース、又は、受託研究個表データ・ベースと称している。 - 51 - Appendix B 大学類型 本調査資料で用いた「大学類型」は、国立大学法人評価委員会・国立大学法人分科会・業 務及び財務等審議専門部会で発表(平成17 年6 月22 日)されている「国立大学法人類型化 について(案)」に準拠した。 ただし、同案では中規模大学を附属病院の有無でさらに区分しているが、本資料では一つ にまとめ中規模大学の見出しで取り扱いしている。また、大学院大学と1983 年度から2007 年度までの共同研究契約累積件数で上位50 大学に含まれない医科大学、文科系中心大学、 教育大学に属する各大学は本調査資料の分析対象から外しており、以下の類型のうち、大規 模大学、中規模大学、理工系中心大学の3 つの類型のみ取り扱いしている。 国立大学法人類型化(案) 区分 定義 含まれる大学 大規模大学 (13 大学) 学生収容定員1 万人以上、学部 等数概ね10 学部以上の国立大 学法人 北海道大学、東北大学、筑波大学、千葉大 学、東京大学、新潟大学、名古屋大学、京 都大学、大阪大学、神戸大学、岡山大学、 広島大学、九州大学 中規模大学 (34 大学) ①大規模大学を除き、学部が医 科系学部その他の学部で構 成される国立大学法人 ②医科系学部を有さず、理工系 中心大学又は文科系中心大 学のいずれにも属さない国 立大学法人 ①弘前大学、秋田大学、山形大学、群馬大 学、富山大学、金沢大学、福井大学、山梨 大学、信州大学、岐阜大学、三重大学、鳥 取大学、島根大学、山口大学、徳島大学、 香川大学、愛媛大学、高知大学、佐賀大学、 長崎大学、熊本大学、大分大学、宮崎大学、 鹿児島大学、琉球大学 ②岩手大学、茨城大学、宇都宮大学、埼玉 大学、お茶の水女子大学、横浜国立大学、 静岡大学、奈良女子大学、和歌山大学 理工系中心大学 (13 大学) 医科系学部を有さず、学生収容 定員に占める理工系学生数が 文科系学生数の概ね2 倍を上回 る国立大学法人 室蘭工業大学、帯広畜産大学、北見工業大 学、東京農工大学、東京工業大学、東京海 洋大学、電気通信大学、長岡技術科学大学、 名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、京都 工芸繊維大学、九州工業大学、鹿屋体育大 学 文科系中心大学 (7 大学) 医科系学部を有さず、学生収容 定員に占める文科系学生数が 理工系学生数の概ね2 倍を上 回る国立大学法人 小樽商科大学、福島大学、筑波技術大学、 東京外国語大学、東京芸術大学、一橋大学、 滋賀大学、(大阪外国語大学注) 医科大学 (4 大学) 医科系学部のみで構成される 国立大学法人 旭川医科大学、東京医科歯科大学、浜松医 科大学、滋賀医科大学 教育大学 (11 大学) 教育系学部のみで構成される 国立大学法人 北海道教育大学、宮城教育大学、東京学芸 大学、上越教育大学、愛知教育大学、京都 教育大学、大阪教育大学、兵庫教育大学、 奈良教育大学、鳴門教育大学、福岡教育大 学 大学院大学 (4 大学) 大学院のみで構成される国立 大学法人 北陸先端科学技術大学院大学、奈良先端科 学技術大学院大学、総合研究大学院大学、 政策研究大学院大学 注:2007 年10 月に大阪大学と統合 - 52 - Appendix C Amos による構造方程式モデリングとモデルの適合度指標 (A) 分析手順 Amos を利用した構造方程式モデリングは、図A.1 に示すように、設定した仮説モデルに 基づいたデータの取得と設定を行い、併せて、Amos のGUI を利用してパス図を構成し、パ ス図とデータを合わせて分析を実行するが基本的な手順である。 分析結果は適合度指標により判定し、必要に応じてモデルの修正、改良を実施する。 12 F1 e3 Y3 e2 Y2 e1 Y1 F2 e4 Y4 e5 Y5 e6 Y6 d1 0.82 0.75 0.63 0.88 0.42 0.78 0.91 F1 F3 F2 仮説モデル F1 e3 Y3 e2 Y2 e1 Y1 1 1 1 1 Amos GUIによるパス図描画 観測変数データ Amos分析実行 観測変数 潜在変数 e 誤差変数 因果を表す 相関関係を表す 観測変数データ作成 グラフィックス出力 テキスト出力 図C.1 Amos による構造方程式モデル分析手順 (B) 適合度(Fit index) 適合度は、分析に使用したモデルがデータにどのくらいあてはまっているのか、という度 合いです。表5.2.1 に示す適合度指標により判断する。 表C.1 モデルの適合度指標 基準値 適合度指標 説明 Good Fit Acceptable Fit χ2 適合度検定 「モデルは真のモデルに 適合する」という帰無仮 説について検定するも のである。p 値 (probability value)が 0.05 より小さく有意だ と、帰無仮説が棄却され る。 0.05< p ≦1.00 0.01≦ p ≦0.05 RMSEA (Root Mean Square Error of Approximation) モデルの分布と真の分 布との乖離を1自由度 あたりの量として表現 した指標 0 ≦RMSEA≦0.05 0.05