DISCUSSION PAPER NO.59 ライフサイエンス・バイオテクノロジー分野における 大学教育組織の展開と産学共同研究 2010 年1 月 文部科学省科学技術政策研究所 第1 研究グループ 加藤 雅俊 小田切 宏之 このDISCUSSION PAPER は、所内での討論に用いるとともに、関係の方々からのご意見を頂くことを目 的に作成したものである。また、このDISCUSSION PAPER の内容は、執筆者の見解に基づいてまとめら れたものであることに留意されたい。 ライフサイエンス・バイオテクノロジー分野における 大学教育組織の展開と産学共同研究 2010 年1 月 加藤 雅俊 文部科学省科学技術政策研究所 第1 研究グループ客員研究官 一橋大学経済研究所 講師 小田切 宏之 文部科学省科学技術政策研究所 第1 研究グループ客員研究官 一橋大学大学院経済学研究科 教授 〒100-0013 東京都千代田区霞ヶ関3-2-2 中央合同庁舎第7 号館東館16 階 Email: 1resgr@nistep.go.jp TEL: 03-3581-2396 FAX: 03-3503-3996 The Development of University Educational Organizations in the Field of Life Sciences and Biotechnology, and University-Industry Joint Research January, 2010 Masatoshi Kato Hiroyuki Odagiri 1st Theory-Oriented Research Group National Institute of Science and Technology Policy (NISTEP) Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT) 3-2-2 Kasumigaseki, Chiyoda, Tokyo 100-0013 Email: 1resgr@nistep.go.jp TEL: +81-3-3581-2396 FAX: +81-3-3503-3996 ライフサイエンス・バイオテクノロジー分野における 大学教育組織の展開と産学共同研究? 加藤 雅俊† 小田切 宏之‡ 2010 年1 月 ? 第3 節で利用した国立大学における産学共同研究に関するデータは文部科学省科学技術 政策研究所第2 研究グループにより収集・整理されたもので,この作業にあたった小林信 一元総括主任研究官,永田晃也現客員総括主任研究官をはじめとする第2 研究グループ各 位に感謝したい.特に,長谷川光一研究員は本論文での分析に向けたデータ整理・提供の ための労を厭われなかった.深く感謝したい. † 一橋大学経済研究所講師・文部科学省科学技術政策研究所客員研究官 ‡ 一橋大学大学院経済学研究科教授・文部科学省科学技術政策研究所客員研究官 - 1 - 【概要】 本章では,バイオテクノロジー分野における産学連携の推進に対し,大学における新学 部・新研究科等の教育組織の設置がいかなる役割を果たしてきたかについて、2 段階に分け て実証分析する.第1 段階では,日本において,どのような大学がライフサイエンス分野 に関連する教育・研究組織を設置してきたかを分析する.続いて第2 段階では,こうした ライフサイエンス分野における教育・研究組織の設置がバイオテクノロジー分野の産学共 同研究をどのように促進してきたかを分析する.この結果,産学連携を促進するためにも 大学におけるライフサイエンス関連教育・研究組織を幅広く開設することが重要であるこ とが明らかとなった. The Development of University Educational Organizations in the Field of Life Sciences and Biotechnology, and University-Industry Joint Research Masatoshi Kato and Hiroyuki Odagiri 【Abstract】 How does the establishment of new or additional university departments promote university-industry joint research in the field of life sciences and biotechnology? We study this question through two analyses. First, we investigate the development of departments (undergraduate and graduate courses) on life sciences in Japan since the 1950s. Second, using this result, we analyze statistically whether and how such development contributed to the undertaking and frequency of university-industry joint research in biotechnology. The results suggest that, first, the expansion of such university departments in fact contributed to the promotion of university-industry joint research and, second, these collaborations increased following the 1998 legislation to promote technology transfer from universities (the so-called TLO Act) and the 1999 legislation to allow universities to retain rights on their inventions made from government research funds (the so-called Japanese Bayh-Dole Act). - 2 - 1. はじめに 大学は,経済発展の初期から,産業の発展に大きな役割を果たしてきた1.この傾向は, サイエンス(科学)に依拠したイノベーションが中心的な位置を占めるサイエンス型産業 (後藤・小田切,2003) において顕著で,その代表がバイオテクノロジー関連産業である (小 田切,2006).バイオテクノロジー(以下,バイオと略記することがある)は,基礎科学で あるライフサイエンス(生命科学,以下ライフと略記することがある)と密接な関係を持 っているからである.このため,バイオの発展においては,基礎研究の主な担い手である べき大学が果たす役割は大きい.例えばNelsen (1991) は,大学が、バイオ産業が誕生した 場所であり,ほとんどの基礎的な新技術の源泉でもあることを指摘している. ライフサイエンスは,生物・生命とその機能について研究する学問分野を指し,古くか ら存在する系統分類学,ダーウィンの『種の起源』(1958 年) に始まる進化生物学なども含 むが,現代のバイオテクノロジーに最も大きなインパクトを与えたのは,メンデルの遺伝 の法則に始まる遺伝学そして分子生物学である.さらに,1953 年のワトソンとクリックに よるDNA 二重らせんの発見,1973 年のコーエンとボイヤーによる遺伝子組換え技術の発明, 2003 年に完了声明が出された国際ヒトゲノム・プロジェクトによるヒトゲノム解読などを 経て,ライフサイエンスは今日まで大きく進化を遂げてきた.これらいずれの発見・発明 においても,大学研究者が大きな役割を果たしている.しかも,ボイヤーが設立者の1 人 となったベンチャー企業(ジェネンテック社)が今や世界の大手製薬会社の1 つになって いることでわかるように,大学と産業の連携が産業発展の原動力の1 つとなっている. このことはまた,サイエンス型産業の発展のためには,大学における関連基礎分野の研 究・教育体制の整備と,それと産業との間での連携の推進が図られなければならないこと を意味する.このことは1990 年代半ばから日本の科学技術政策・産業政策においても強く 認識され,科学技術基本計画で重視されるとともに,ライフサイエンス等重点分野への研 究資金の配分,日本版バイ=ドール法やTLO法その他による産学連携推進政策の実施が図ら れてきた.こうした政策の効果については,文部科学省科学技術政策研究所における調査 などによって分析されてきた2.また,産学連携が産業イノベーションに与える効果につい ても多くの分析がある3.しかしながら,大学における教育・研究体制がどのように整備さ 1 米国についてはRosenberg and Nelson (1994),ドイツについては Murmann (2003),日本に ついてはOdagiri and Goto (1996),Odagiri (1999)参照. 2 「基本計画レビュー」と呼ばれるこの調査の概要については文部科学省科学技術政策研究 所 (2005) 参照. 3小田切 (2006,第3,4 章),馬場・後藤 (2007) におけるサーベイ参照.バイオテクノロジ ー分野に限った実証分析として小田切・加藤 (1998) がある. - 3 - れてきたか,それが産学連携にどのような意味を持ったかを定量的に分析した研究は,筆 者らの知る限り,なされていない.本稿での研究はこの間隙を埋めるためのものである. 本章では,この問題を2 段階で分析する.次の第2 節では,ライフサイエンスの発展に 対応して日本の大学が新しい教育・研究体制を設けていったプロセスを,各大学の教育組 織改編の実態をもとに調査する.さらに,この調査結果を基に,ライフ・バイオ分野にお ける教育組織の開設に積極的であった大学はどのようなものであったかの要因分析を行う. さらに第3 節では,大学におけるこうしたライフ・バイオ分野における教育組織の設置が, バイオ分野の産学間の共同研究を促進する上でどのような役割を果たしてきたのかについ て実証的に分析する.終節では,本研究からの結論と含意を述べる. 2. ライフサイエンス分野における教育組織の設置 2.1. 概観 日本の大学のライフサイエンス関連の教育組織がどのように開設されてきたか,それを 概観するために東京大学 (代表的総合大学),東京工業大学 (代表的工科大学),筑波大学 (1973 年開学のいわゆる新構想大学) という3 つの大学を選び,それら大学のホームページ 記載情報から,ライフサイエンス分野における教育組織,すなわち学部(筑波大学では学 類),(学部内の)学科,研究科,(研究科内の)専攻,それぞれの変遷を整理した.その結 果が表1 にまとめられている. 概ね1980 年代以降にライフサイエンスやバイオテクノロジーに関連すると見られる組織 が設けられていることが窺われる.ただし,この一覧によっても,何をもってライフ・バ イオ分野の組織とみなすかの困難性が理解されよう.この表では1965 年以降に限って記載 しているが,実は東京大学では,1955 年に生物系研究科が設置されており,これは日本の 大学の中においては最も早い時期に設置されたライフサイエンス関連教育組織といえなく もない.しかし表1 に見られるように,1965 年には,生物系研究科等は改編され,理学系・ 医学系等の研究科となって,研究科名から生物の文字が消えている.とはいえ,生物関連 の教育・研究がなくなったわけではないであろう.さらに,ヒトゲノム研究のパイオニア として著名な和田昭允氏の回顧によれば (和田,2005),同氏は1962 年に東京大学理学部の 物理学教室に着任し,生物物理学研究室を立ち上げたという.理学部あるいは物理学教室 という肩書きを見るだけでは,ライフサイエンスに関連する研究は埋もれてしまう.同氏 の著書のタイトル『物理学は越境する』がまさに示すように,ライフサイエンスのように 既存の学問領域の境界を越える形で発展する学問分野について,その展開を公開された資 料のみで判断するのが困難でもあり危険でもあることがわかる. - 4 - 表1. 主要3 大学におけるライフサイエンス関連の教育・研究組織の新設と改組 大学 年 事項 東京大学 1965 大学院の生物系,数物系,化学系の3 研究科を改組し,理学系,医学系,薬学系,工学系,農学系の5 研究科を設置. 1967 伝染病研究所を廃止し,医科学研究所を設置. 1991 医科学研究所内にヒトゲノム解析センターを設ける. 1992 理学系研究科の重点化により,化学,生物化学,動物学,植物学,人類学,地質学,鉱物学の7 専攻が改組整備. 1993 応用微生物研究所を分子細胞生物学研究所に改組. 1993 農学系研究科を農学生命科学研究科と改称.応用生命化学(農芸化学が改称),応用生命工学,応用動物科学,獣医学の4 専攻の整備. その後の他専攻の整備により,2000 年には12 専攻となる. 1995 理学系研究科において,動物学,植物学,人類学の生物3 専攻を統合し生物化学専攻に改組.物理学,天文学,地球惑星科学,化学, 生物化学,生物科学の6 専攻となる. 1997 医学系研究科において,第一基礎医学,第二基礎医学,第二臨床医学の3 専攻を廃止し,分子細胞生物学,機能生物学,生体物理医 学,脳神経医学の4 専攻に改組.この前後の他専攻の整備により,12 専攻となる. 1997 薬学系研究科において,薬学,製薬化学,生命薬学の3 専攻を分子薬学専攻,機能薬学専攻,生命薬学専攻の3 専攻に改組. 東京工業大学 1986 理学部に生命理学科,工学部に生物工学科設置. 1988 理学部に生体機構学科,工学部に生体分子工学科設置. 1990 生命理工学部設置(理学部生命理学科・生体機構学科,工学部生物工学科・生体分子工学科を振替). 1991 大学院生命理工学研究科設置(バイオサイエンスおよびバイオテクノロジーの2 専攻). 1999 大学院生命理工学研究科バイオサイエンス(一部)およびバイオテクノロジー(一部)の2 専攻を改組し,分子生命科学,生命情報および 生体分子機能工学専攻を設置.生命理工学部生命理学科,生体機能工学科,生物工学科および生体分子工学科を改組し,生命科学科 および生命工学科を設置. 2000 大学院生命理工学研究科バイオサイエンスおよびバイオテクノロジー専攻を改組し,生体システムおよび生物プロセス専攻を設置. 筑波大学 1973 開学,医学専門学群など設置. 1975 第2 学群(生物学類,農林学類など),大学院博士課程生物科学研究科設置. 1976 大学院博士課程に農学研究科を設置,動物実験センター設置. 1984 遺伝子実験センターを設置 1993 大学院修士課程にバイオシステム研究科を設置. 1994 農林学類を生物資源学類と改称. 2001 大学院博士課程生物科学研究科,農学研究科,地球科学研究科を統合し,生命環境科学研究科を設置.動物実験センターを生命科学 動物資源センターに改組. 出所: 各大学ホームページ (小田切, 2006, P.56, 表3-1 より転載). - 5 - 東工大では1980 年代から生命理学,生物工学というまさにライフサイエンス,バイオテ クノロジーを表す言葉の入った学科が設立されており,その意味での先見性を感じさせる. 筑波大学では1975 年に生物学類,生物科学研究科が開設されており,新構想大学としての 開学のために新分野への対応が重視され,あるいは容易であったものと推測される.これ ら大学でも,1990 年代に入りさらに改編が行われ,バイオの名前が陽表的に記された研究 科や専攻が設置されている. こうした展開が3 大学に限らず日本の大学全般で観察されるかどうかを確認するため, 『全国大学一覧 平成17 年度版』(文教協会) を用いて,全国国公私立大学の教育・研究組 織の変遷を調査し,ライフサイエンス分野における教育組織の新規設置数の推移を見た. ここでライフサイエンス分野における教育組織とは,組織の名前に生物 (学),生物工学, 生物化学,生命工学,バイオなど,ライフサイエンスと密接に関連すると思われる言葉を 含む学部,(学部内)学科,研究科,(研究科内)専攻を指す.すでに述べたように,こうした 組織名のみで判断することには大きな誤差が予想される.そこで,組織名のみではライフ サイエンスと関連があるかどうかの判断が難しい場合には,組織のウェブサイトなどを参 照することによって情報を補足し,判断した.それでも,和田氏の事例のように物理学科 (ないし物理学専攻)内で生物物理学が教育・研究されている場合には,この調査方法で はカウントされず,過小評価が起きる可能性がある.一方,生物の名前が付いているため ライフ関連としてカウントされるが,いわゆる旧来型の生物学(分類学等)が中心であっ て,一般に新しい学問として認識されているライフサイエンスとはいえないものが含まれ る可能性も否定できず,こうした意味では過大評価の可能性がある.ただし,ウェブサイ トで得た情報により理解できた範囲ではこうした事例はほとんど見あたらなかったので, 過大評価による誤差は限られたものと推測される.いずれにせよ,以下で紹介する調査結 果には過大にも過小にも誤差が発生している可能性が否定できないことを踏まえた上で, 全体的傾向を概観するのが本研究の狙いである. 調査結果は国公立大学(図1)と私立大学(図2)に分けて示されている. - 6 - 図1. 国公立大学におけるライフサイエンス関連の教育・研究組織の新設数 - 7 - 図2. 私立大学におけるライフサイエンス関連の教育・研究組織の新設数 - 8 - すでに述べた,1980 年代後半,特に1990 年代に入ってからライフ関連の教育・研究組織 の設置が増えたという傾向は,国公立・私立いずれにおいても確認できる.ただし,これ らの図を比較すると,国公立と私立では3 点で違いが見られる.第1 に,1950 年から1970 年代に,数は少ないがいくつかの大学においてすでにライフサイエンス関連の教育組織が 設置されているが,この傾向が国公立大学で相対的により多く観察される.第2 に,学部・ 学科レベルの教育に関して,1990 年代の設置が国公立大学においてより活発であったとみ られることで,学部レベルの設置も起きているが,私立大学では学部レベルでの設置は相 対的に少ない.第3 に,大学院教育で見ると,研究科の設置が国公立大学で相対的に活発 であったのに対し,私立大学では専攻が多く設置されたことである. 既に述べたように,ライフサイエンス研究の発展の契機が,1953 年のDNA二重らせんの 発見にあり,バイオテクノロジー研究発展の契機が1973 年の遺伝子組換え技術の発明にあ ったとするなら,1980 年代後半以降にライフ・バイオ分野での教育・研究組織の開設が活 発化したという事実は,教育・研究体制の改編に15 年から35 年程度のラグ(遅れ)が発生し ていたのではないかとの危惧を感じさせる.大学の運営方法や組織そのものの違いが大き いので単純な日米比較は困難であるが,例えばマサチューセッツ工科大学(MIT)では1977 年に保健科学技術のための新しい教育研究機関としてWhitaker College of Health Science and Technologyが,また1982 年にはWhitehead Institute for Biomedical Researchが設置されており, いち早くライフサイエンスの基礎研究が開始されてきたと推測される4.また、カリフォル ニア大学バークリー校とスタンフォード大学の比較研究によれば,1980 年前後より分子生 物学等の発展にともなった改組の議論が始まり,ともに1989 年までかかり改組が行われて いる5.日本でも,表1 や図2-3 で見られるように,東京大学など一部の有力大学において はライフサイエンス分野の教育・研究組織の設置が早い時期から行われ,1980 年代後半に は設置が増え出すから,日米の差は明確でない.MITと比較する限り,新分野での大学の研 究・研究組織の立ち上げに,米国と比較しての遅れがあった可能性が示唆されるが,正確 な比較のためには,それぞれの組織がどれだけ実質的なものであったか,またそこで教育・ 研究されるのが真に新しい意味でのライフサイエンスであったかの吟味が必要であり,本 稿ではそこまで立ち入ることができない. 4 MIT のウェブサイトによる. 5 Jong (2008) は,バークリーが州立大学,スタンフォードが私立大学であるという違い, バークリーはメディカルスクールを持たないが(カリフォルニア大学ではサンフランシス コ校がメディカルスクールを持つ)スタンフォードは持つという違い,スタンフォードが シリコンバリーに近いという違い,が両校における新組織立ち上げのプロセスの違いを生 んだことを指摘しており興味深い. - 9 - やや古くなるが,研究のライフサイクルという観点から,山田圭一教授らのグループが 新学問分野に対応した日本の大学の教育組織の立ち上げにラグがあることを定量的に明ら かにしたことがある.林・山田 (1975) は,高分子化学分野における研究のライフサイクル と日本における大学の学科設置数の推移を分析して,日本の大学の教育・研究関連組織が 当該分野における世界のトレンドと比較して立ち上がりが遅かったことを指摘した.また, 山田・塚原 (1986) も同様に,さまざまな研究分野において,各分野のライフサイクルのピ ークを研究者数,研究費,学会発表数などのデータを用いて定量的に分析して,日本の大 学における教育・研究関連組織の立ち上がりの遅さを指摘した.同じ傾向がライフ・バイ オ分野でも存在したかをより厳密に分析するためには,学科等の設置だけではなく,研究 者数,研究費,論文数,特許数などの多面的な観点からの分析が必要であり,またより厳 密に国際比較をするためには,米国等の大学制度を踏まえた上で,詳細な研究を米国の教 育・研究組織について研究することが必要となる.こうした研究は将来的な課題としたい. 2.2. 要因分析 前節で示した調査結果をもとに大学別のクロスセクション分析を行い,日本の大学の中 でライフサイエンス教育・研究組織の設置を積極的に行ってきたのはどのような大学かと いう要因分析をしよう.まず,図1 での調査結果より,各大学でライフサイエンス関連の 何らかの教育組織(学部,学科,研究科,専攻)が最初に設置された年(すべて年度でい う)を特定した.たとえば東京大学は1955 年に生物系研究科を設置しているため,1955 年 を初めてライフサイエンス関連の教育組織を設置した年とみなした.これにもとづき,2001 年までにライフサイエンス関連の教育組織が設置されていれば1,設置されていなければ0 とするダミー変数 (LIFE) を作成し,従属変数として用いることとした.また,2001 年以 前にどれだけ早く設置したかを見るため,基準年 (2001) から遡って何年前に教育組織が設 置されたかを表す変数 (LIFE_AGE) も従属変数として用いた. 独立変数として用いたのは5 変数である.第1 は,大学の規模 (UNIV_SIZE) に関するも ので,2005 年度の各大学のすべての教育組織の学生定員数の合計を用いる.規模の大きい 大学ほど新分野に関する教育への社会的ニーズは大きいであろうこと,また新学科等の設 置のための人的あるいは設備的な余力は大きいであろうことが考えられ,LIFE に対しても LIFE_AGE に対しても正の効果を持つであろうと予想することができる.特に,国公立大学 における新学科等の設置にあたっては,ニーズの少なくなった学科等の改編で対応すると いうスクラップ・アンド・ビルドを文部科学省や予算当局が要求する場合が多いことから, 大規模大学ほどそうした対象となりうる学科等を有しているため新学科等の設置が容易に - 10 - なるという可能性もある. 第2 は,大学の設置から経過した年数 (UNIV_AGE) である.古い伝統を持つ大学である ほど新学科等の設置へのニーズが高い,あるいはスクラップ・アンド・ビルドしやすいと いう観点から,UNIT_AGE は正の係数を持つことが予測される.ただし,表1 で示した筑波 大学の例のように,新規の大学ほど新しい学問分野の学科等を積極的に設置する可能性も あるので,その場合にはむしろ負の係数を持つ可能性がある. 第3 は,文系・理系ともに設置されていれば1 とするダミー変数 (COMPRE),また同様 のものとして第4 に,理系の単科大学であれば1 とするダミー変数 (SCIENCE) である6. もともと理系の学部や研究科を持っていれば,ライフ・バイオ分野への教員間での理解も 高く,学生からのニーズも高いと想定されることから,いずれのダミー変数も正の係数を 持つものと予測される.このうち,文系も有する総合大学 (COMPRE) と文系を持たない理 工系大学 (SCIENCE) のいずれでライフ・バイオ分野の学科等の設置が早いかは,文系の存 在が補完的な効果を持つかどうかを示すものと解釈できる. 第5 は,私立大学について1 の値を取るダミー変数 (PRIVATE) である.前述のとおり, 図1,2 の比較によれば,ライフ関連の教育組織の設置は国公立大学の方が私立大学より早 いように思われるが,この推測が統計的にも成立するかどうかを確認するために説明変数 として含んだ. これら変数についての定義と記述統計量は表2 に示したとおりである. 6 この他に,文系のみを有する大学(筆者らの属する一橋大学はその例である)もあるので, 両ダミー変数がともに0 の値を取るサンプルがある. - 11 - 表2. クロスセクション分析における変数の定義と記述統計量: 国公立・私立大学サンプル (観測数:715) 変数 定義 平均値 標準偏差 (従属変数) LIFE ダミー変数:2005 年度までにライフサイエンス関連の教育・研究組織 (学 部・学科,研究科・専攻) を設置していれば1,そうでない場合は0. 0.197 0.398 LIFE_AGE ライフサイエンス関連の教育・研究組織 (学部・学科,研究科・専攻) を当 該大学内で初めて設置してから経過した年数. 2.870 7.588 (独立変数) UNIV_SIZE 大学の教育・研究組織 (学部・学科,研究科・専攻)の入学定員数 (単位:千 人). 0.924 1.392 UNIV_AGE 大学の設置から経過した年数. 32.772 20.009 COMPRE ダミー変数: 文系・理系ともに設置されていれば1,そうでない場合は0. 0.200 0.400 SCIENCE ダミー変数: 理系の単科大学であれば1,そうでない場合は0. 0.161 0.368 PRIVATE ダミー変数: 私立大学であれば1,そうでない場合は0. 0.776 0.417 - 12 - 推定は全大学(国立,公立,私立のすべてを含む),国公立大学,国立大学,私立大学の それぞれについて行い,その結果を表3~5 に示す7.推定方法としては,2001 年までにラ イフサイエンス関連の教育組織が設置されているかどうかのダミー変数 (LIFE) を従属変 数とするモデルではプロビットを用いた.一方,教育組織が設置されてからの年数に関す る変数 (LIFE_AGE) を従属変数とするモデルでは,この変数が非負に限られ,2001 年まで にライフサイエンス関連の教育組織が設置されていない大学の場合には0 の値をとるため, トービットを用いた.同時に、LIFE_AGEは、カウントデータであることを考慮して、ネガ ティブバイノミアル(負の二項)モデルを用いての推定も行った8. 表3~5 が示すとおり,いずれの従属変数に対しても,また全大学・国公立・国立・私立 のいずれについても,文系・理系双方を有する総合大学に関するダミー変数 (COMPRE), 理系単科大学に関するダミー変数 (SCIENCE) について有意に正の係数を得た.また、大学 の規模 (UNIV_SIZE) に関しては、表5 の全大学、私立大学をサンプルとした場合を除いて、 いずれの従属変数に対しても有意に正の係数を得た.上記の仮説がいずれも成立している ことがわかる.また大学の年齢 (UNIV_AGE) については,全大学では有意で正の係数を得 たが,国公立,国立については有意な係数とならず,私立については表4 においてLIFE_AGE を従属変数としてトービットモデルによって推定した場合のみ正で有意であった.私立大 学においては伝統ある大学ほど早くからライフ分野へ展開していたことになる.一方,国 立大学においては,上述したように.伝統ある大学ほど新分野へのニーズが高い,あるい はスクラップ・アンド・ビルドしやすいという効果と,新設大学ほど新分野への取組に積 極的であるという効果が打ち消しあっているものと見られる. 全大学をサンプルとするとき,表3~5 のいずれにおいてもPRIVATE について有意に負の 係数となった.図1,2 から推測したように,一般的に,国立大学の方が私立大学よりライ フサイエンス分野の教育組織の設置に積極的であった,あるいはそのために必要な資金 的・人的資源の確保が容易であったことを示唆する. プロビット分析の係数とトービット分析の係数を直接比較することは意味を持たないが, 同一モデル内での2 つの変数,COMPRE とSCIENCE の係数を比較することには意味がある. 表3~5 によれば,いずれのモデルでも,国立大学ではCOMPRE の係数がSCIENCE の係数 7 文系のみの大学を除いたサンプルによっても推定した(このとき,すべてのサンプル大学 が COMPRE または SCIENCE で1 の値をとることになるため,SCIENCE を除外した).こ の推定結果は付表1~3 に示されているが、文系を含んだ分析結果(表3?5)と基本的に変 わらない. 8 ライフ関連教育組織を2005 年度までに持たず,LIFE =LIFE_AGE=0 となる大学は全大 学で574 (全サンプル715 の80%),国立大学で89 (全サンプル160 の56%) に及ぶ. - 13 - より大きいが,私立大学では逆の傾向がある.すなわち国立大学では理系単科大学よりも 総合大学でライフサイエンス関連教育組織の設置に活発であることを示し,文系組織の存 在がプラスに働いている,あるいは文系の存在が補完的効果を持っていると推測されるが, 私立大学ではむしろ逆であると見られる.ただし,両係数の差は標準誤差に比較すれば小 さく,有意ではない.また,国公立大学では,プロビットモデルではSCIENCE の係数の方 が大きく、トービットモデルとネガティブバイノミアルモデルではCOMPRE の係数の方が 大きいが,有意な差ではない. - 14 - 表3. ライフサイエンス関連の教育組織設置についてのプロビットモデルによる推定結果: 従属変数=LIFE 変数 国公立・私立大学国公立大学 国立大学 私立大学 UNIV_SIZE 0.284*** 1.122*** 1.149** 0.244*** (0.074) (0.368) (0.487) (0.078) UNIV_AGE 0.00862* -0.001 -0.0174 0.00683 (0.005) (0.009) (0.017) (0.006) COMPRE 1.880*** 1.744*** 1.612*** 1.713*** (0.224) (0.439) (0.553) (0.266) SCIENCE 1.873*** 1.923*** 1.585*** 1.863*** (0.211) (0.397) (0.490) (0.246) PRIVATE -0.811*** (0.163) 定数項 -2.077*** -2.394*** -1.346* -2.698*** (0.260) (0.426) (0.761) (0.272) 擬似決定係数 0.507 0.563 0.470 0.425 対数尤度 -174.954 -48.044 -29.729 -120.863 観測数 715 160 87 555 注: 1. ライフサイエンス関連の教育・研究組織を設置していない大学 (LIFE=0 およびLIFE_AGE=0) となる大学は, 国公立・私立大学で574,国公立で89,国立で30,私立大学で485 ある. 2. ***,**, *は,それぞれ1%,5%,10%水準で係数が有意であることを示す.括弧内は標準誤差である. - 15 - 表4. ライフサイエンス関連の教育組織設置についてのトービットモデルによる推定結果:従属変数=LIFE_AGE 変数 国公立・私立大学国公立大学 国立大学 私立大学 UNIV_SIZE 2.327*** 5.981*** 5.472*** 1.762** (0.578) (0.910) (0.794) (0.747) UNIV_AGE 0.190*** 0.058 -0.076 0.215** (0.067) (0.072) (0.101) (0.099) COMPRE 29.980*** 22.689*** 17.392*** 30.629*** (0.538) (4.044) (3.791) (4.927) SCIENCE 28.231*** 19.070*** 14.423*** 32.135*** (3.357) (3.940) (3.724) (4.737) PRIVATE -11.584*** (2.064) 定数項 -32.648*** -23.399*** -9.835* -47.832*** (4.372) (4.462) (5.503) (6.390) 擬似決定係数 0.220 0.214 0.171 0.195 対数尤度 -677.052 -294.934 -220.057 -365.282 観測数 715 160 87 555 注: 表3 への注と同じ. - 16 - 表5. ライフサイエンス関連の教育組織設置についてのネガティブバイノミアルモデルによる推定結果:従属変数=LIFE_AGE 従属変数 国公立・私立大学国公立大学 国立大学 私立大学 UNIV_SIZE 0.145 0.311** 0.260*** 0.150 (0.088) (0.126) (0.099) (0.132) UNIV_AGE 0.020*** 0.012 -0.008 0.017 (0.008) (0.008) (0.012) (0.013) COMPRE 4.138*** 3.142*** 2.438*** 4.799*** (0.326) (0.398) (0.426) (0.510) SCIENCE 4.228*** 2.678*** 1.986*** 5.017*** (0.316) (0.377) (0.411) (0.488) PRIVATE -1.230*** (0.260) 定数項 -2.662*** -1.781*** 0.125 -4.379*** (0.378) (0.389) (0.576) (0.518) 擬似決定係数 0.163 0.121 0.078 0.170 対数尤度 -759.170 -357.551 -268.820 -380.645 観測数 715 160 87 555 注: 表3 への注と同じ. - 17 - 3. バイオテクノロジー分野の産学連携に与える影響 前節では,日本の大学のライフサイエンス関連の教育組織の設置がどのように行われて きたかを分析したが,次の段階として,こうした設置がバイオテクノロジー分野の産学連 携の促進に貢献したか実証的に分析しよう. 3.1. データとモデル 産学連携には,産学共同研究の他にも企業による大学への研究委託,企業から大学への 寄附金,大学から企業への特許ライセンシング,さらにはより非公式なものとして大学教 員による企業へのコンサルティング,企業による大学への研究者派遣など,さまざまな形 態のものがある.本分析では,このうち,共同研究に限定する.これは主として2 つの理 由による.第1 は,産学連携政策の一環として大学による共同研究の受入の自由化,手続 きの簡素化・柔軟化が進められたことと,企業の側でも契約による産学双方の責務の明確 化への要求が増えたことから,より非公式な寄附金から公式の共同研究へのシフトが起き るなど,共同研究が中心的なものとなってきたことである(小田切,2006,第4 章). 第2 は,国立大学においては共同研究について文部科学省による調査が行われており, 大学ごと,分野ごと等の共同研究に関するデータが入手可能なことである.このデータは 文部科学省研究振興局環境・産業連携課技術移転推進室「『民間等との共同研究』実施報告 書」で調査されているもので,民間等との共同研究制度により研究を行った国立大学等が 翌年5 月までに提出を義務付けられているものに基づいている.同調査に基づいた国立大 学の共同研究に関する分析はすでに文部科学省科学技術政策研究所ほか (2003,2005) にお いて公表されているので,調査の詳細についてはこれらを参照されたい.本稿では,これ に基づいて求められた大学別の共同研究契約件数の数字を用いる.以下では,研究分野を バイオテクノロジーとする民間等との共同研究に限り,その契約件数のデータを用いるが, 研究分野がバイオテクノロジー等の8 分野(バイオに加え材料開発,機器開発,エネルギ ー,ソフトウェア,エレクトロニクス,土木,建築)のいずれかに該当するかどうかを回 答させる調査は1995 年度から2000 年度のみ行われたので,以下での分析のサンプル期間 は1995 年度から2000 年度である.また同調査が国立大学のみを対象とするので,以下の 分析は国立大学のみをサンプルとする9. 表6 において,分析で用いられる1995 年度から2000 年度までの間のバイオテクノロジ ー分野における民間等との共同研究契約に関する年次別統計量を示している.共同研究を 9 政策研究大学院大学は1997 年に設立されているため,1995 年と1996 年の2 年間はサン プルから除かれている. - 18 - 実施している大学数は,1995 年に国立大学86 のうち51 あったが,その後,特に1998 年以 降,増加したことがわかる.また,共同研究契約件数も,1995 年度から2000 年度にかけて 大幅に増加している. 表6.大学のバイオテクノロジー分野における民間等との共同研究契約に関する年次別統計量 1995 1996 1997 1998 1999 2000 国立大学数 86 86 87 87 87 87 実施大学数 51 51 52 56 56 60 新規実施大学数 - 5 4 9 3 5 全契約件数 204 267 274 305 427 684 1 大学あたりの契約件数 2.4 3.1 3.1 3.5 4.9 7.9 注:新規実施大学数とは,前年度共同研究契約を実施しなかった大学のうち,当該年度に 新たに共同研究を実施した大学の数を示す. 上記で説明されたデータを用いて大学別(全国立大学)および年度別時系列(1995-2000 年度)のパネルデータによる計量分析を行うが,従属変数は,各年度・各大学のバイオテ クノロジー分野における民間等との共同研究契約の有無を表すダミー変数 (COLLABO) お よび共同研究契約の件数 (N_ COLLABO) である. すでに述べたように,本研究の目的は,ライフサイエンス分野における大学の教育組織 (学部,学科,研究科,専攻)の設置がバイオテクノロジー分野における共同研究契約を 促進したかどうかの検証である.そこで,中心的な説明変数として、ライフサイエンス分 野における大学の教育組織の設置に関する3 つの代替的な変数を用いる. 第1 は,各年度までに各国立大学でライフサイエンス関連の教育組織の設置が行われて いたかどうかに関するダミー変数 (LIFE) である.この変数は,いつ設置がされたかに関わ らず,教育組織の設置の有無が共同研究契約に影響を与えるかどうかを見るためのもので ある.なお,新学部等の設置は年度当初の4 月1 日になされるのが普通であるから,当該 年度のうちに締結される共同研究契約との間には,平均半年のずれがあることになる.こ のことにより,設置から共同研究に結びつくために要するラグを受容できるとともに,産 学連携が新教育・研究組織の設立を促すという逆の関係を避けることができる10. このラグ効果が重要だとすれば,いち早く教育組織を設置した大学ほど共同研究契約を 10 Jong (2008) によれば,スタンフォード大学では,シリコンバリーに近いこともあって, 1980 年代に企業との交流が増えたことがライフ・バイオの研究・教育体制の整備を促進す る効果があったという. - 19 - 積極的に行う傾向が予想される.新組織の存在が産業界に周知されたり,民間等との共同 研究を行うための大学側の体制が整えられるためには,一定の期間がかかり,また,大学 におけるTLO など産学連携推進機関が研究者・産業とのネットワークを作ったり,産学連 携推進のためのノウハウを蓄積するには年数がかかる可能性があるからである.そこで, 第2 の変数として,教育組織の設置が共同研究契約の促進へ影響を及ぼすまでのタイムラ グを考慮するため,LIFE を何年前に設置されたかによって分けたダミー変数を用いる.す なわち,ライフサイエンス関連の教育組織が1 年前 (当該年度をいう) から5 年前 (当該年 度を含んで5 年前,以下も同様) までの間に設置されていれば1 の値をとるダミー変数 (LIFE_1-5Y) ,6 年前から10 年前までの間に設置されていれば1 の値をとるダミー変数 (LIFE_6-10Y),11 年前から15 年前までの間に設置されていれば1 の値をとるダミー変数 (LIFE_11-15Y), 16 年前あるいはそれ以前に設置されていれば1 の値をとるダミー変数 (LIFE_16Y) である. 同様のものとして,第3 の変数として,初めてライフサイエンス関連の教育組織を設置 してから経過した年数 (LIFE_AGE) を用いる.設置してから共同研究に至る効果が年数と ともに比例的に増加あるいは減少するのであれば第2 の変数(4 つのダミー変数)と LIFE_AGE は同じ説明力を持つはずであるが,この効果が正であっても逓減的である場合や, 数年後にピークを迎えるような逆U 字型であるような場合には,単独の変数である LIFE_AGE より年数で分けたダミー変数群の方が、説明力が高いはずである.このことを検 証するため,第2 の変数と第3 の変数を代替的に用いることとした. この他,コントロール変数として,大学のすべての教育組織の入学定員数の合計 (UNIV_SIZE),大学の設置から経過した年数 (UNIV_AGE),文系・理系ともに設置されてい れば1 とするダミー変数 (COMPRE),理系の単科大学であれば1 とするダミー変数 (SCIENCE) を独立変数に含める.最後に,年度の効果をコントロールするための年度ダミ ーをモデルに含めた.これらは,ここではパネルデータになっていることを別とすれば, 第2 節における分析と同じ変数(年度ダミーを除く)である.第2 節では,これら変数がライ フサイエンス関連の教育組織設置の決定要因であることを明らかにしたから,LIFE や LIFE_AGE とは独立ではなく,推計上の問題が生じるおそれがある.そこで,これらコント ロール変数を含んだモデルと含めないモデルの双方を推定した. 表7 に,これらの変数の定義と記述統計量を示した.推定には,従属変数として共同研 究契約の有無 (COLLABO) を用いる場合には変量効果プロビットモデル (random effects probit model) を用いた.従属変数として共同研究契約件数 (N_ COLLABO) を用いる場合に は,共同研究契約を行っていない国立大学・年度(全観測数520 のうち194)について N_ - 20 - COLLABOが0 の値をとる.このため変量効果トービットモデル (random effects tobit model) を用いた.また,共同研究契約件数がカウントデータであることを考慮したモデルとして, 変量効果ネガティブバイノミアルモデル (random effects negative binomial model) を用いて の推定も行った11. 11 変量効果プロビットモデル,変量効果トービットモデルおよび変量効果ネガティブバイ ノミアルモデルの推定には,それぞれSTATA S.E. (ver.11) のxtprobit,xttobit およびxtnbreg のコマンドを用いた.これらのモデルに関する詳細は,たとえば,Wooldridge (2003) を参 照されたい. - 21 - 表7. パネルデータ分析における変数の定義と記述統計量 (観測数: 520) 変数 定義 平均値標準偏差 (従属変数) COLLABO ダミー変数:バイオテクノロジー分野における共同研究契約があれば1,そう でない場合は0. 0.627 0.484 N_COLLABO バイオテクノロジー分野における共同研究契約の数. 4.156 6.680 (独立変数) LIFE ダミー変数: 当該年度までにライフサイエンス関連の教育・研究組織 (学部・ 学科,研究科・専攻) を設置していれば1,そうでない場合は0. 0.581 0.494 LIFE_1-5Y ダミー変数: 1 年 (当該年度) から5 年以内にライフサイエンス関連の教育・ 研究組織 (学部・学科,研究科・専攻) を設置していれば1,そうでない場合 は0. 0.092 0.290 LIFE_6-10Y ダミー変数: 6 年から10 年以内にライフサイエンス関連の教育・研究組織 (学 部・学科,研究科・専攻) を設置していれば1,そうでない場合は0. 0.231 0.422 LIFE_11-15Y ダミー変数: 11 年から15 年以内にライフサイエンス関連の教育・研究組織 (学部・学科,研究科・専攻) を設置していれば1,そうでない場合は0. 0.138 0.346 LIFE_16Y ダミー変数: 16 年以前にライフサイエンス関連の教育・研究組織 (学部・学 科,研究科・専攻) を設置していれば1,そうでない場合は0. 0.119 0.324 LIFE_AGE ライフサイエンス関連の教育・研究組織 (学部・学科,研究科・専攻) を初め て設置してから経過した年数. 6.981 8.665 UNIV_SIZE 大学の教育・研究組織 (学部・学科,研究科・専攻)の入学定員数.(単位:千人) 1.747 1.478 UNIV_AGE 大学の設置から経過した年数. 43.600 12.267 COMPRE ダミー変数: 文系・理系ともに設置されていれば1,そうでない場合は0. 0.554 0.498 SCIENCE ダミー変数: 理系の単科大学であれば1,そうでない場合は0. 0.219 0.414 - 22 - 3.2. 推定結果 共同研究契約の有無 (COLLABO) を従属変数とするプロビットモデルによる推定結果を 表8,共同研究契約件数 (N_COLLABO) を従属変数とするトービットモデルおよびネガテ ィブバイノミアルモデルによる推定結果をそれぞれ表9 と表10 に示す12.いずれに対して も,(1) 式が示すようにLIFEは正で有意な係数を持つ.このことは,ライフサイエンス関連 の教育組織を設置している大学 (LIFE) ほど,設置していない大学よりも共同研究契約をす る確率が高い傾向にあること,また共同契約件数が多い傾向にあることを示している.よ って,ライフサイエンス関連の教育・研究組織の設置は産学共同研究を促進する効果があ ると見ることができる. 12 これらの3 つの従属変数を用いて,文系のみの大学を除いたサンプルによっても推定し た(このとき,すべてのサンプル大学が COMPRE または SCIENCE で1 の値をとること になるため,SCIENCE を除外した).これらの推定結果は、付表4~6 にあるとおり、大き な違いを生まなかった. - 23 - 表8. 共同研究契約の有無についての推定結果: 変量効果プロビットモデル 従属変数: COLLABO (1) (2) (3) (4) (5) (6) LIFE 1.678*** 3.114*** (0.459) (0.462) LIFE_1-5Y 1.459*** 2.240*** (0.509) (0.550) LIFE_6-10Y 1.842*** 3.120*** (0.531) (0.526) LIFE_11-15Y 2.068*** 3.633 *** (0.665) (0.664) LIFE_16Y 2.032* 4.590** (1.069) (1.041) LIFE_AGE 0.129*** 0.272*** (0.049) (0.048) UNIV_SIZE 0.607** 0.532 0.443 (0.303) (0.330) (0.359) UNIV_AGE -0.111 -0.010 -0.011 (0.020) (0.020) (0.022) COMPRE 2.705*** 2.572*** 3.217*** (0.804) (0.814) (0.853) SCIENCE 3.501*** 3.422*** 3.753*** (0.757) (0.757) (0.812) Y1996 -0.002 -0.040 -0.038 -0.030 -0.119 -0.124 (0.322) (0.323) (0.318) (0.318) (0.319) (0.310) Y1997 0.067 0.016 -0.006 0.016 0.099 -0.176 (0.325) (0.328) (0.325) (0.319) (0.321) (0.315) Y1998 0.435 0.375 0.298 0.355 -0.230 -0.049 (0.338) (0.342) (0.344) (0.324) (0.327) (0.324) Y1999 0.459 0.373 0.260 0.352 0.179 -0.068 (0.344) (0.355) (0.357) (0.325) (0.335) (0.331) Y2000 0.805** 0.712* 0.649* 0.601* 0.418** 0.251 (0.362) (0.374) (0.382) (0.329) (0.341) (0.342) 定数項 -3.338*** -3.209*** -3.060*** -1.140*** -1.105*** -0.601* (0.955) (0.953) (1.003) (0.392) (0.383) (0.358) 対数尤度 -153.110 -152.641 -156.024 -174.439 -170.439 -174.791 観測数 520 520 520 520 520 520 注: 1. バイオテクノロジー分野の共同研究契約を行っていない大学 ・年度 (COLLABO =0 および N_COLLABO=0) は194 ある. 2. ***,**, *は,それぞれ1%,5%,10%水準で係数が有意であることを示す.括弧内は標準誤差である. - 24 - 表9. 共同研究契約件数についての推定結果: 変量効果トービットモデル 従属変数: N_COLLABO (1) (2) (3) (4) (5) (6) LIFE 4.168*** 9.353*** (1.436) (1.513) LIFE_1-5Y 4.015** 6.967*** (1.571) (1.622) LIFE_6-10Y 4.112*** 8.270*** (1.522) (1.457) LIFE_11-15Y 4.246 ** 9.221*** (1.684) (1.574) LIFE_16Y 6.074** 15.867*** (2.417) (2.047) LIFE_AGE 0.432*** 0.705*** (0.104) (0.071) UNIV_SIZE 3.003*** 2.652*** 1.277* (0.476) (0.593) (0.659) UNIV_AGE -0.057 -0.051 -0.030 (0.059) (0.059) (0.057) COMPRE 8.550*** 8.716*** 9.310*** (2.391) (2.430) (2.178) SCIENCE 12.607*** 12.486*** 12.106*** (2.226) (2.229) (2.140) Y1996 1.161 1.137 0.788 1.104 0.883 0.510 (0.805) (0.815) (0.791) (0.815) (0.820) (0.772) Y1997 1.323 1.289 0.636 1.135 0.869 0.119 (0.810) (0.830) (0.811) (0.813) (0.827) (0.778) Y1998 2.156*** 2.100** 1.088 1.957** 1.575* 0.367 (0.814) (0.850) (0.838) (0.804) (0.836) (0.781) Y1999 4.146*** 4.068*** 2.730*** 3.819*** 3.310*** 1.721** (0.824) (0.889) (0.875) (0.798) (0.860) (0.785) Y2000 8.164*** 8.017*** 6.453*** 7.663*** 6.876*** 5.134*** (0.834) (0.917) (0.913) (0.785) (0.862) (0.780) 定数項 -14.947*** -14.770*** -12.892*** -7.169*** -6.890*** -4.851*** (2.836) (2.866) (2.769) (1.370) (1.265) (0.936)) 対数尤度 -1055.571 -1055.084 -1051.489 -1089.975 -1081.699 -1071.111 観測数 520 520 520 520 520 520 注: 表8 への注と同じ. - 25 - 表10. 共同研究契約件数についての推定結果: 変量効果ネガティブバイノミアルモデル 従属変数: N_COLLABO (1) (2) (3) (4) (5) (6) LIFE 1.061*** 1.855*** (0.301) (0.308) LIFE_1-5Y 1.038*** 1.645*** (0.315) (0.326) LIFE_6-10Y 1.048*** 1.702*** (0.306) (0.305) LIFE_11-15Y 1.085 *** 1.783*** (0.317) (0.311) LIFE_16Y 1.341** 2.335*** (0.394) (0.354) LIFE_AGE 0.032 0.084*** (0.021) (0.019) UNIV_SIZE 0.342*** 0.289*** 0.251** (0.085) (0.098) (0.125) UNIV_AGE -0.010 -0.009 -0.001 (0.012) (0.012) (0.012) COMPRE 2.873*** 2.913*** 3.375*** (0.513) (0.517) (0.497) SCIENCE 3.532*** 3.514*** 3.773*** (0.484) (0.486) (0.493) Y1996 0.284*** 0.281*** 0.255** 0.257** 0.255** 0.217** (0.103) (0.103) (0.104) (0.104) (0.104) (0.104) Y1997 0.308*** 0.303*** 0.247** 0.265** 0.256** 0.157 (0.105) (0.106) (0.111) (0.104) (0.105) (0.108) Y1998 0.435*** 0.424*** 0.333*** 0.393*** 0.368*** 0.193* (0.106) (0.109) (0.119) (0.100) (0.105) (0.114) Y1999 0.773*** 0.758*** 0.638*** 0.715*** 0.681*** 0.446*** (0.104) (0.111) (0.128) (0.095) (0.104) (0.120) Y2000 1.254*** 1.229*** 1.084*** 1.182*** 1.130*** 0.851*** (0.106) (0.114) (0.139) (0.089) (0.101) (0.125) 定数項 -1.353* -1.301* -1.280 -1.437*** -1.373*** -2.086*** (0.754) (0.755) (0.788) (0.531) (0.527) (0.524) 対数尤度 -885.457 -884.840 -889.830 -919.054 -915.794 -922.105 観測数 520 520 520 520 520 520 注: 表8 への注と同じ. - 26 - また, (2) 式によれば, 1?5 年前に設置 (LIFE_1-5Y),6?10 年前に設置 (LIFE_6-10Y), 11?15 年前に設置 (LIFE_11-15Y) ,16 年以上前に設置 (LIFE_16Y) の順に係数が高くなる 傾向が表6~8 のいずれでも観察され,これらはすべて統計的に有意であった.これは,早 い時期に教育関連組織を設置した大学ほど共同研究契約を結ぶ可能性が高く,また件数も 大きくなるというラグ効果があることを示している.しかも,LIFE_1-5Y,LIFE_6-10Y, LIFE_11-15Y,LIFE_16Y の順にほぼ直線的に係数推定値は増加しており,ラグ効果が逆U 字型(あるいはU 字型)や逓減・逓増的な関係ではないことを示唆する.いいかえれば年 数のみを変数としてもほぼ同じ説明力を持つであろうことを示唆し,実際に表8~10 にお ける (3) 式に見られるように,ライフサイエンス関連の教育組織を設置してから経過した 年数 (LIFE_AGE) の係数は正であり,表8 を除き統計的に有意であった.対数尤度で見る 限り,複数ダミー変数を用いることによる説明力の増加も限られたものである.よって, ライフサイエンス関連の教育組織の設置は,産学共同研究の確率を高め,その件数を増や すことに加え,この効果にはラグがあり,設置からの年数が経過するにつれ効果が強まる ことがわかる. (1)?(3) 式では,コントロール変数も利用されている.UNIV_SIZE は正の係数を持ち, 入学定員総数の大きい大学ほど共同研究を活発に実施する傾向を示唆するが,統計的有意 性は不安定である.文系・理系ともに設置されている総合大学を意味する COMPRE,理系 単科大学を意味する SCIENCE はともに正で有意な係数を持ち,文系のみの大学より理系を 有する大学の方が共同研究をより高い確率で,またより多く実施する傾向が確認される. しかも,いずれの表でもSCIENCE がCOMPRE より大きな係数を示しており,両者の差は 表9 で顕著である.よって,文系も有する総合大学に比べ理系単科大学では,共同研究を 実施する確率が高く,また実施している大学についてみれば,より多くの件数を実施して いることが示唆される.理系単科大学における産学共同研究への積極性,あるいは産業へ のオープンさを窺わせる結果である. 最後に,表8~10 で示されているように,年度ダミーの効果に関して,1995 年を基準年 とした場合の年度ダミーの係数が後になるに従って大きくなる傾向がある.表8 では、2000 年度ダミーのみの係数が有意である一方で,表9 では1998 年度以降の年次ダミーの係数が 有意に正であることが示されている.表10 では,すべての年次ダミーの係数が有意に正を 示し,後の年度になるに従って共同研究契約が増加する傾向があることを示している.こ の結果は,1998 年度と1999 年度にそれぞれ制定されたTLO 法(大学等技術移転促進法) と日本版バイドール法(産業活力再生特別措置法)が産学連携を促進したとする仮説と整 合的である.特に、年度途中で制定されたこれら法案の効果がその翌年から現れたとする - 27 - かぎり、共同研究契約の有無(表8)に対しては1999 年法が,共同研究契約件数(表9, 10)には1998 年法、1999 年法のいずれもが効果を持ったと推測される.同時に,年次の効 果をコントロールした後でさえも,ライフサイエンス関連教育組織の設置の産学共同研究 を促進する効果は依然として有意であることが示された. ライフサイエンス関連教育組織の設置がこれらコントロール変数と独立ではないことを 考慮して,コントロール変数を除いて推定した結果が,それぞれの表8~10 における (4), (5), (6) 式に示されている.大学規模や総合大学・理系単科大学であることがライフサイエンス 関連教育組織設立と正に相関していることから予想されるように,これら変数の効果をコ ントロールしなければLIFE 等の効果は高まる傾向にある.コントロールするにせよしない にせよ,LIFE 等の効果が正で有意であることには変わりがなく,ライフサイエンス関連教 育組織の設置が産学共同研究を促進する効果があると結論できる. 4. おわりに 本稿では,現代のバイオテクノロジーの基礎をなすライフサイエンスの分野において, 日本の大学の教育組織の設置が産業のイノベーションに果たす役割について2 段階の分析 をおこなった.第1 段階では,大学におけるライフサイエンス分野における教育組織の設 置について調査し,1970 年代までに設置した大学もあるものの,大半は1980 年代後半以降, 特に1990 年代に入ってから設置されたことを明らかにした.さらに,設置の要因を計量的 に分析することにより,規模の大きい大学,理系を有する大学ほどライフサイエンス関連 の教育組織設置に積極的であったことを示した.第2 段階では,文部科学省の国立大学に よる産学共同研究契約のデータを用い,大学のライフサイエンス分野における教育組織の 設置が,バイオテクノロジー分野の産学共同研究を促進したこと,しかしこの効果にはラ グがあり,教育組織設置からの年数が経つにつれ産学共同研究実施の確率も件数も増える 傾向にあることを示した. 産学連携が産業イノベーションに与える効果については広く議論され,政府の科学技術 基本計画においても強調されて,1990 年代中頃以降,産学連携を推進するための規制緩和 や促進政策がとられてきた.こうした政策の必要性についてはいうまでもないが,本章で の分析結果は、次の3 点において、さらに新しい観点を提供するものである. 第1 は, 既存の大学がより活発に産学連携を実施するように政策的に促進するのみでは なく,その受け皿となる大学の教育・研究機関を拡充するという政策的視点も必要なこと である.ライフ・バイオのように新しく,また拡大する分野の場合,それを教育・研究す る組織の拡充は,国立大学の場合における国からの予算の制約,また大学内部での既存組 - 28 - 織との調整の困難性などがネックとなって遅れ気味となる.そのもとで,いかに関連組織 の拡充を促進していくか,大きな政策課題である. 第2 は,そうした組織が設置されてから産学共同研究契約に至るまでには時間を要する ことである.これは,TLO のような産学連携を仲介・推進し,実務を担う組織作りに時間 がかかったり,これら組織が大学内研究者の生み出す技術のシーズを把握し,逆に産業が 求めるニーズを把握することに時間がかかったり,シーズやニーズを評価する能力,それ らを結びつける能力(いわばマーケティング能力),また産学連携のための契約を結び実行 するための法務や実務能力を身に着けるには時間がかかったりするためであると推測され る.こうした能力を養成し,必要な大学に供給するための仕組み作り,また研究者・産業 間の情報流通を活発化させる仕組み作り,それらの重要性を本稿の分析結果は明らかにし ている. 第3は,個々の大学がバイオ共同研究を実施する確率も,実施大学の共同研究件数も, 分析期間の1995 年から2000 にかけて有意に増加したことである.特に実施件数で1999 年 と2000 年の増加が顕著である。大学等技術移転促進法(いわゆるTLO 法)が制定されたの は1998 年5 月であり,同年8 月に文部省・通商産業省により実施指針が策定されている。 また産業活力再生特別措置法(いわゆる日本版バイ=ドール法)が制定されたのは1999 年8 月 (10 月施行) である.よって,これらの産学連携促進のための法整備と政策が進められた ことにより,TLO が設立されて共同研究のための大学での受入体制作りが進み,また,バ イ=ドール法によって,政府研究資金の支援を受ける共同研究成果を大学のものとできるこ とが明確になったことによって,共同研究へのインセンティブが高まり,共同研究実施件 数の増加につながったものと推測される.もちろん,本稿での分析はこれら政策の直接の 効果を見たものではなく,年ダミー変数の効果から類推しているにとどまるため,政策効 果と断言することは危険である.それでも,政策効果と整合的な結果が得られたことは重 要な示唆である.今回用いたバイオ共同研究に関するデータが2001 年度以降については作 成されていないため,2000 年までの増加傾向がその後も続いたのかどうかを確認すること ができないことが惜しまれる. - 29 - 参考文献 小田切宏之 (2006)『バイオテクノロジーの経済学』東洋経済新報社. 小田切宏之・加藤祐子 (1998)「バイオテクノロジー関連産業における産学共同研究」,『ビ ジネスレビュー』,第 45 巻3 号,62-80 . 後藤晃・小田切宏之 (2003)『サイエンス型産業』 NTT 出版. 馬場靖憲・後藤晃編著 (2007)『産学連携の実証研究』 東京大学出版会. 林雄二郎・山田圭一 (1975) 『科学のライフサイクル』 中央公論社. 文部科学省科学技術政策研究所 (2005)「基本計画達成効果の評価のための調査?主な成果」, NISTEP Report No. 83. 文部科学省科学技術政策研究所第2 研究グループ・研究振興局環境・産業連携課技術移転 推進室 (2003)「産学連携 1983?2001」,科学技術政策研究所調査資料,No. 96. 文部科学省科学技術政策研究所第2 研究グループ・研究振興局環境・産業連携課技術移転 推進室 (2005)「国立大学の産学連携:共同研究 (1983 年?2002 年) と受託研究 (1995 年?2002 年)」,科学技術政策研究所調査資料,No. 119. 山田圭一・塚原修一 (1986)『科学研究のライフサイクル』 東京大学出版会. 和田昭允 (2005)『物理学は越境する?ゲノムへの道』 岩波書店. Jong, Simcha (2008) “Academic Organizations and New Industrial Fields: Berkeley and Stanford after the Rise of Biotechnology,” Research Policy, 37, 1267-1282. Murmann, Johann Peter (2003) Knowledge and Competitive Advantage. Cambridge: Cambridge University Press. Mueller, P. (2006) “Exploring the Knowledge Filter: How Entrepreneurship and University-Industry Relationships Drive Economic Growth,” Research Policy, 35, 1499-1508. Nelsen, L.L. (1991) “The Lifeblood of Biotechnology: University-Industry Technology Transfer,” In Dana Ono, R. (eds.) The Business of Biotechnology. Boston: Butterworth-Heinemann, 39-75. Odagiri, Hiroyuki (1999) “University-Industry Collaborations in Japan: Facts and Interpretations,” in Lewis M. Branscomb, Fumio Kodama, and Richard Florida (eds.) Industrializing Knowledge. Cambridge, MA: The MIT Press, 252-265. Odagiri, Hiroyuki and Akira Goto (1996) Technology and Industrial Development in Japan. Oxford: Oxford University Press. 小田切宏之・後藤晃著,河又貴洋・絹川真哉・安田英 土訳『日本の企業進化』 東洋経済新報社 1998 年. Rosenberg, Nathan and Richard R. Nelson (1994) “American Universities and Technical Advance in Industry,” Research Policy, 23, 323-348. - 30 - 付表1. ライフサイエンス関連の教育組織設置についてのプロビットモデルによる推定結果:従属変数=LIFE (理系サンプル) 変数 国公立・私立大学国公立大学 国立大学 私立大学 UNIV_SIZE 0.276*** 1.404*** 1.753** 0.232*** (0.076) (0.445) (0.687) (0.080) UNIV_AGE 0.009 -0.002 -0.008 0.006 (0.006) (0.010) (0.023) (0.007) COMPRE 0.009 -0.380 -0.572 -0.128 (0.200) (0.439) (0.657) (0.243) PRIVATE -0.882*** (0.185) 定数項 -0.164*** -0.567 -0.526 -0.802** (0.290) (0.410) (0.891) (0.310) 擬似決定係数 0.187 0.304 0.331 0.092 対数尤度 -145.233 -37.877 -21.061 -100.380 観測数 258 94 67 164 注: 1. ライフサイエンス関連の教育・研究組織を設置していない大学 (LIFE=0 およびLIFE_AGE=0) となる大学は, 国公立・私立大学で574,国公立で89,国立で30,私立大学で485 ある. 2. ***,**, *は,それぞれ1%,5%,10%水準で係数が有意であることを示す.括弧内は標準誤差である. - 31 - 付表2. ライフサイエンス関連の教育組織設置についてのトービットモデルによる推定結果: 従属変数=LIFE_AGE (理系サンプル) 変数 国公立・私立大学国公立大学 国立大学 私立大学 UNIV_SIZE 2.263*** 6.033*** 5.560*** 1.651** (0.588) (0.890) (0.762) (0.781) UNIV_AGE 0.205*** 0.064 0.001 0.234** (0.076) (0.079) (0.117) (0.118) COMPRE 1.690 3.357 1.813 -1.242 (2.472) (2.830) (2.914) (3.625) PRIVATE -12.052*** (2.243) 定数項 -4.736 -4.485 1.198 -16.736*** (4.002) (3.710) (5.537) (5.482) 擬似決定係数 0.058 0.103 0.112 0.023 対数尤度 -632.059 -294.934 -205.259 -335.473 観測数 258 94 67 164 注: 付表1 への注と同じ. - 32 - 付表3. ライフサイエンス関連の教育組織設置についてのネガティブバイノミアルモデルによる推定結果: 従属変数=LIFE_AGE (理系サンプル) 変数 国公立・私立大学国公立大学 国立大学 私立大学 UNIV_SIZE 0.126 0.341*** 0.278*** 0.070 (0.082) (0.107) (0.082) (0.110) UNIV_AGE 0.025*** 0.008 0.004 0.030** (0.008) (0.008) (0.011) (0.015) COMPRE 0.070 0.479* 0.301 -0.058 (0.289) (0.290) (0.291) (0.450) PRIVATE -0.716*** (0.261) 定数項 -0.952** 1.043*** 1.561*** 0.166 (0.450) (0.379) (0.543) (0.641) 擬似決定係数 0.022 0.044 0.041 0.010 対数尤度 -686.037 -316.815 -239.459 -344.361 観測数 258 94 67 164 注: 付表1 への注と同じ. - 33 - 付表4.共同研究契約の有無についての推定結果: 変量効果プロビットモデル (理系サンプル) 従属変数: COLLABO (1) (2) (3) (4) (5) (6) LIFE 1.741*** 1.929*** (0.518) (0.458) LIFE_1-5Y 1.477** 1.479*** (0.575) (0.561) LIFE_6-10Y 1.885*** 1.858*** (0.573) (0.512) LIFE_11-15Y 2.115*** 2.121*** (0.709) (0.647) LIFE_16Y 2.711** 2.950*** (1.074) (0.920) LIFE_AGE 0.146*** 0.152*** (0.051) (0.043) UNIV_SIZE 0.708 0.415 0.364 (0.502) (0.544) (0.591) UNIV_AGE -0.017 -0.010 -0.012 (0.029) (0.030) (0.032) COMPRE -0.713 -0.664 -0.434 (0.741) (0.752) (0.794) Y1996 -0.080 -0.132 -0.162 -0.093 -0.139 -0.176 (0.339) (0.342) (0.339) (0.335) (0.339) (0.335) Y1997 0.010 -0.062 -0.128 -0.018 -0.075 -0.157 (0.345) (0.350) (0.350) (0.338) (0.343) (0.340) Y1998 0.661* 0.573 0.452 0.610* 0.549 0.407 (0.372) (0.379) (0.383) (0.358) (0.365) (0.361) Y1999 0.575 0.448 0.281 0.506 0.410 0.221 (0.379) (0.396) (0.401) (0.357) (0.373) (0.365) Y2000 1.022** 0.871** 0.794* 0.922** 0.821** 0.720* (0.417) (0.435) (0.447) (0.380) (0.397) (0.397) 定数項 -3.714 -2.057 -1.273 0.052 0.047 0.512 (0.513) (3.089) (3.357) (0.437) (0.429) (0.393) 対数尤度 -131.772 -130.920 -132.435 -132.944 -131.459 -132.712 観測数 402 402 402 402 402 402 注: 1. バイオテクノロジー分野の共同研究契約を行っていない大学 ・年度 (COLLABO =0 および N_COLLABO=0) は194 ある. 2. ***,**, *は,それぞれ1%,5%,10%水準で係数が有意であることを示す.括弧内は標準誤差である. - 34 - 付表5. 共同研究契約件数についての推定結果: 変量効果トービットモデル (理系サンプル) 従属変数: N_COLLABO (1) (2) (3) (4) (5) (6) LIFE 3.528** 5.222*** (1.692) (1.639) LIFE_1-5Y 3.568** 4.048** (1.776) (1.714) LIFE_6-10Y 3.511** 4.333*** (1.722) (1.559) LIFE_11-15Y 3.551* 4.703*** (1.892) (1.684) LIFE_16Y 7.640*** 11.279*** (2.625) (2.083) LIFE_AGE 0.504*** 0.533*** (0.095) (0.069) UNIV_SIZE 5.649*** 4.092*** 1.509** (1.286) (1.467) (1.410) UNIV_AGE -0.131 -0.096 -0.043 (0.083) (0.082) (0.075) COMPRE -4.831** -3.810* -2.858*** (2.228) (2.204) (1.946) Y1996 1.147 1.119 0.638 1.021 0.962 0.566 (0.821) (0.834) (0.809) (0.823) (0.833) (0.803) Y1997 1.403* 1.344 0.441 1.125 1.065 0.306 (0.832) (0.856) (0.835) (0.821) (0.841) (0.808) Y1998 2.582*** 2.476*** 1.108 2.173*** 2.060** 0.904 (0.843) (0.885) (0.867) (0.809) (0.848) (0.806) Y1999 4.596*** 4.453*** 2.656*** 4.051*** 3.894*** 2.387*** (0.869) (0.945) (0.919) (0.807) (0.880) (0.815) Y2000 8.961*** 8.648*** 6.579*** 8.278*** 7.883*** 6.247*** (0.899) (1.000) (0.974) (0.799) (0.890) (0.820) 定数項 -33.559*** -24.972*** -9.216 -2.407 -2.696* -2.228** (7.707) (8.667) (8.335) (1.542) (1.409) (0.952) 対数尤度 -1027.325 -1025.168 -1017.502 -1036.194 -1029.140 -1018.958 観測数 402 402 402 402 402 402 注: 付表4 への注と同じ. - 35 - 付表6. 共同研究契約件数についての推定結果: 変量効果ネガティブバイノミアルモデル (理系サンプル) 従属変数: N_COLLABO (1) (2) (3) (4) (5) (6) LIFE 0.978*** 1.176*** (0.340) (0.289) LIFE_1-5Y 0.966*** 0.982*** (0.346) (0.305) LIFE_6-10Y 0.982*** 1.011*** (0.337) (0.283) LIFE_11-15Y 1.023 *** 1.083*** (0.350) (0.289) LIFE_16Y 1.420*** 1.666*** (0.419) (0.325) LIFE_AGE 0.042** 0.059*** (0.019) (0.014) UNIV_SIZE 0.696*** 0.515** 0.433 (0.209) (0.232) (0.272) UNIV_AGE -0.016 -0.014 -0.003 (0.015) (0.014) (0.013) COMPRE -0.877*** -0.714* -0.569 (0.425) (0.429) (0.434) Y1996 0.283*** 0.278*** 0.245** 0.256** 0.258** 0.230** (0.104) (0.104) (0.105) (0.106) (0.105) (0.105) Y1997 0.318*** 0.307*** 0.232** 0.271** 0.267** 0.196* (0.108) (0.109) (0.113) (0.814) (0.106) (0.107) Y1998 0.459** 0.441*** 0.320*** 0.411*** 0.391*** 0.269** (0.109) (0.112) (0.121) (0.102) (0.105) (0.108) Y1999 0.802*** 0.776*** 0.616*** 0.733*** 0.707*** 0.543*** (0.110) (0.117) (0.131) (0.096) (0.104) (0.109) Y2000 1.284*** 1.242*** 1.053*** 1.194*** 1.151*** 0.966*** (0.115) (0.123) (0.143) (0.091) (0.101) (0.108) 定数項 -1.655 -0.655 -0.127 1.911*** 1.891*** 2.251*** (1.346) (1.450) (1.633) (0.540) (0.550) (1.122) 対数尤度 -860.853 -859.306 -862.308 -866.241 -862.053 -863.683 観測数 402 402 402 402 402 402 注: 付表4 への注と同じ. - 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